中小企業法律支援センター

コラム:労務~社員の退職後の情報管理について~ 投稿者 : 田島 正広(弁護士)

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執筆日:2016/10/17

Q.社員の退職に際して、取引先を奪われたり、秘密情報を持ち出されないための対処法を教えてください。

A.入社時に協業避止義務・秘密保持に関する合意の取り交わしをしていなければ、当該社員が扱っていた技術上ないし営業上の情報の事業上の重要性次第では、退職までに競業避止義務・秘密保持義務に関する合意を取り交わしておくとよいでしょう。

解説①

会社の重要な技術上ないし営業上の情報を取り扱う一定程度の役職者が退職して同業他社を設立するケースはよく見られます。一般の従業員は、在職中は職務専念義務を負うと共に、就業規則によって競業避止義務、秘密保持義務を課せられていることも多いのですが、退職後にもこれらの義務を課すことの有効性については、職業選択の自由(憲法22条1項)との関係で、議論があります。

解説②

この点、まず、退職後の競業避止義務の有効性に関しては、規定の趣旨、目的に照らし、必要かつ合理的な範囲に限定されるべきとして、保護しようとする営業上の利益・秘密の内容、それに対する従業員の関わり合い、競業避止義務を負担する期間や地域、在職中営業秘密に関わる従業員に対し代償措置が取られていたかどうかなどを考慮して判断すべきとするのが判例です。せっかく締結した競業避止契約が無効だと解釈されないよう、会社の事業の実情と当該社員の関与状況に応じた内容に極力限定した競業避止契約を締結すべきといえます。

解説③

また、退職後の秘密保持義務の有効性に関しては、秘密保持義務の対象となる秘密の定義が無限定ではなく、具体的例示等により特定されているか、その内容は営業に不可欠な顧客名簿等経営の根幹に関わる重要な情報であるか、当該社員はこれらの秘密事項を熟知してその利用方法・重要性を十分認識していたか、等を考慮して、判断した裁判例があります。ここでも、会社の事業の実情と当該社員の関与状況に応じた限定的内容での秘密保持義務契約を締結するのが確実です。その管理の実が高まることで、不正競争防止法にいう営業秘密としての保護を受けられる可能性も高まり、その保護の程度はより一層高くなるでしょう。
なお、秘密保持義務については、後の裁判でその拘束力が問題とされることもあり得ますが、現実の場面では従業員に対して、心理的な抑止効果に力点を置くことも多くあります。その場合は、秘密の定義、義務者の範囲等を限定しない広範な内容での秘密保持義務が相応の意味を持つこともあります。

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