経営お役立ちコラム

2019.08.21 【労務】

年俸制でも残業代は発生します!

弁護士 鵜ノ沢 大地

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執筆日:2016/8/29

○ここがポイント!

①年俸制でも残業代は発生します。

②請求される可能性がある残業代は2年間です。

ある企業からの質問です。

当社従業員は、毎朝午前9時から午後11時まで仕事をしていますが、当社は残業代を支払っておりません。

その理由は、当社は、従業員の給料を、業績やノルマの達成度に応じた年俸制で支給しており、就業規則にも、年俸制の従業員に対する残業代は支給しないとの規定があるからです。

最近、ある従業員から、残業代の支払いを求める内容証明郵便が届きました。

当社は、その従業員に対して、年俸で400万円を支給しており、毎月の支払額はこれを14等分して月額28万円(ボーナス月の7月と12月は60万円)としています。当社は、従業員の請求に応じる必要があるのでしょうか。

年俸制と残業代との関係は?

年俸制とは、1年間分の給料の総額を決め、それを各月ごとに分割して支払うような給料形態のことをいいます。

本来、年俸制は、単に労務に従事した時間を基に賃金を支払うというものではなく、各労働者の具体的な成果や業績を踏まえて賃金を支払おうとする制度ですが、実際には、広く1年単位で賃金額を決定する賃金制度と理解することも可能です。

年俸制といっても、賃金額を年単位で決めるものにすぎませんので、年俸の中に割増賃金額が入っていたり、年俸制だからといって割増賃金を支払う必要がないという効果もありません。よって、時間外労働をした場合には、残業代を支払う必要はあります。

判例はどうなっていますか?

年俸制の社員に割増賃金が支払われるかが問題となった事例として、システムワークス事件(大阪地裁平成14年10月25日労判844号79号)があります。この事案では、会社の就業規則には、「年俸制適用者については、48条(注:割増賃金支払規定)に関わらず時間外労働手当は支給しない」との規定があり、この規定の有効性が問題となりました。

判決では、このような手当の支払いがあっても、「労働基準法37条が例外的に許容された時間外労働に対し割増賃金の支払いを義務づけ、労働時間制の原則の維持を図るとともに、加重な労働に対する労働者への補償を行わせようとした趣旨からすれば、時間外労働を命じていながらそれに対する割増賃金を支払わなくてよい理由とはなりえ」ないと判示し、上記の就業規則の規定を無効としました。