経営お役立ちコラム

2020.03.31 【新型コロナウイルス関連】

新型コロナウイルス対策に関する各種Q&A
(下請法関連)

【2022.8.8現在】

Q1
商品・製品や成果物を指定の納期に納入しようとしたら、「新型コロナウイルスの影響で売上が落ちている。そのため、仕入れ等をやめたい。」との理由で、発注者側の都合で受領を拒否されてしまいました。どうすればよいのでしょうか。
A1
まず、取引内容や取引当事者の資本金額によって、当該取引が下請法の適用対象となる場合があります。そして、下請法が適用され、当該発注者の行為が下請法に違反する場合、公正取引委員会からの調査や勧告の対象となり得ます(以下、「下請法に関する一般論」といいます。)。
かかる下請法に関する一般論を踏まえて、本設例をみますと、発注者による受領拒否の事案ですので、下請法4条1項1号(「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の受領を拒むこと」)に違反するかが問題となります。
公正取引委員会が公表している下請法に関する運用基準(https://www.jftc.go.jp/shitauke/legislation/unyou.html)によると、かかる「下請事業者の責に帰すべき理由」があるとして下請事業者の給付の受領を拒むことが認められるのは、下請事業者の給付の内容が3条書面に明記された委託内容と異なる場合や下請事業者の給付に瑕疵等がある場合等の極めて限定された場合のみですので、今回の新型コロナウイルスの影響は、「下請事業者の責に帰すべき理由」が該当しないと考えられます。
そのため、本設例の発注者の行為は下請法に違反すると考えられますので、下請業者としては、①下請法違反を指摘した上で、成果物の引取りを求める、②公正取引委員会又は中小企業庁に相談・申立てをして調査や勧告を促す、という手段が考えられます。ただし、これらの対応をとることにより、発注者との継続的取引関係をむしろ悪化させ、最悪の場合、取引関係が終了するなど、結果として受注者の利益とならない可能性があることも留意する必要があります(このように、下請法所定の禁止行為に該当する行為を発注者がした場合に、受注者がその事実を公正取引委員会や中小企業庁に知らせたことを理由に、取引数量を削減したり、取引停止などの不利益な扱いをすることは、下請法4条1項7号が禁止する報復行為に該当します。そのため、仮にこのような取り扱いを受けた場合、受注者としては、取引数量の回復や契約継続を求める等の交渉を行うことの他、再度の調査等を公正取引委員会に求めるという措置が考えられます。)。
なお、下請法の適用対象とならない独占禁止法が定める優越的地位濫用に該当する可能性もあります。また、本取引に関して、発注者に信義則上の受領義務が認められる場合には、契約解除や損害賠償請求の余地もあります。
Q2
成果物を指定の納期に納入したのに、発注者から、「新型コロナウイルスの影響で資金繰りが厳しくなった。」との理由で、報酬が約束通りに支払われていません。どうすればよいのでしょうか。
A2
まず、代金・報酬の支払遅延ですので、訴訟提起、仮差押え、担保権実行、連帯保証人への請求、相殺等の種々の債権回収手段を検討する必要があるでしょう。
また、下請法という観点からすると、上記1の一般論を踏まえて、本設例をみますと、発注者による支払遅延の事案ですので、下請法4条1項2号(「下請代金を支払期日の経過後なお支払わないこと」)に違反するかが問題となりますが、本設例では、同条に違反するものと考えられます。
そのため、下請業者としては、①下請法違反を指摘した上で、契約で定めた報酬の支払を求める、②公正取引委員会又は中小企業庁に相談・申立てをして調査や勧告を促す、という手段が考えられます。ただし、上記1の取引終了等の不利益の可能性には留意する必要があります。
なお、下請法の適用対象とならない独占禁止法が定める優越的地位濫用に該当する可能性もあります。
Q3
発注者により、「新型コロナウイルスの影響で資金繰りが厳しくなった。」との理由で、当初提示されていた報酬や契約書に記載のあった報酬を一方的に減額されました。どうすればよいのでしょうか。
A3
上記1の下請法に関する一般論を踏まえて、本設例をみますと、発注者による一方的な下請金額の減額の事案ですので、下請法4条1項3号(「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに,下請代金の額を減ずること」)に違反するかが問題となります。
この点、下請事業者の了解を得ている場合でも、親事業者が下請事業者の責めに帰すべき事由がないにもかかわらず下請代金を減額すれば、下請法違反となります。また、「歩引き」や「リベート」等の減額の名目、方法、金額の多寡を問わず、発注後どの時点で減額しても下請法違反となります。
そして、下請法に関する運用基準によると、かかる「下請事業者の責に帰すべき理由」があるとして下請代金の減額が認められるのは、下請事業者の給付の内容が発注書面に記載された委託内容と異なる場合や下請事業者の給付に瑕疵等があるとして受領拒否や返品ができるような場合に限定されています。
そのため、本設例の発注者の行為は、下請法に違反すると考えられますので、下請業者としては、①下請法違反を指摘した上で、満額の支払を求める、②公正取引委員会又は中小企業庁に相談・申立てをして調査や勧告を促す、という手段が考えられます。ただし、上記1の取引終了等の不利益の可能性には留意する必要があります。
なお、下請法の適用対象とならない独占禁止法が定める優越的地位濫用に該当する可能性もあります。また、代金・報酬の一部不払いの事案ですので、訴訟提起、仮差押え、担保権実行、連帯保証人への請求、相殺等の種々の債権回収手段も検討する必要があります。
Q4
継続的に取引をしている発注者から、「新型コロナウイルスの影響で経営が悪化して、今後は、これまでどおりの報酬を支払うことができない。」との理由で、報酬の引下げを要求されました。応じなければならないのでしょうか。
A4
上記1の下請法に関する一般論を踏まえて、本設例をみますと、発注者による取引代金の引き下げの事案ですので、下請法4条1項5号(「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」)に違反するかが問題となります。
この点、下請法の同条項では、親事業者は、発注に際して下請代金の額を決定する際に、発注した内容と同種又は類似の給付の内容に対して通常支払われる対価(市場価格や従来の取引価格)に比べて著しく低い額を不当に定めること、いわゆる買いたたきは許されないとされています。
そして、買いたたきに該当するかどうかは、ⅰ)対価の決定方法(下請代金の額の決定に当たり、下請事業者と十分な協議が行われたかどうかなど)、ⅱ)対価の決定内容(差別的であるかどうかなど)、ⅲ)通常支払われる対価と当該給付に支払われる対価との乖離状況、ⅳ)当該給付に必要な原材料等の価格動向などの要素を勘案して総合的に判断することになります。
本設例の発注者の行為について、下請法違反になるかどうかはこれらの事情を勘案して判断することになりますが、仮に違反するという判断になった場合、下請業者としては、①下請法違反を指摘した上で、報酬の引下げには応じられない旨回答する、②公正取引委員会又は中小企業庁に相談・申立てをして調査や勧告を促す、という手段が考えられます。ただし、上記1の取引終了等の不利益の可能性には留意する必要があります。
なお、下請法の適用対象とならない独占禁止法が定める優越的地位濫用に該当する可能性もあります。
Q5
発注者から、「新型コロナウイルスの影響で資金繰りが厳しくなった。」との理由で、報酬支払のため、支払サイト180日の手形を交付されました。しかし、このような長期サイトの手形ですので、金融機関で割引ができず、通常の割引よりも高い割引料でファクタリング業者に買い取ってもらいました。このような手形を交付することは許されるのでしょうか。
A5
上記1の下請法に関する一般論を踏まえて、本設例をみますと、割引困難な手形が交付されている事案ですので、下請法4条2項2号(「一般の金融機関・・・による割引を受けることが困難であると認められる手形を交付すること」)に違反するかが問題となります。
かかる割引困難な手形とは、一般的に、その業界の商慣習、親事業者と下請事業者との取引関係、その時の金融情勢等を総合的に勘案して、妥当と認められる手形期間(現在の運用上、繊維業は90日、その他の業種は120日をされています。)を超える長期の手形のことをいいますので、本設例の手形は、これに該当すると考えられます。
そのため、本設例の発注者の行為は、下請法に違反すると考えられますので、下請業者としては、①下請法違反を指摘した上で、割引困難な手形の受領を拒否し、別の支払手段による対価の支払を求める、②公正取引委員会又は中小企業庁に相談・申立てをして調査や勧告を促す、という手段が考えられます。ただし、上記1の取引終了等の不利益の可能性には留意する必要があります。
なお、結果的に下請事業者が手形の割引を受けることができなかったときは、下請代金の支払があったとはいえないため、支払遅延(下請法4条1項2号)にも該当する可能性があります。
Q6
発注者から、「新型コロナウイルスの影響で従業員を出勤停止にしているが、急に仕事が入ったため人手が足りない。」との理由で、無償で自身の営業活動を手伝うように要請されましたが、これには従わなければならないのでしょうか。
A6
上記1の下請法に関する一般論を踏まえて、本設例をみますと、不当な経済上の利益の提供要請がされている事案ですので、下請法4条2項3号(「自己のために金銭,役務その他の経済上の利益を提供させること」)に違反するかが問題となります。
この点、下請法では、親事業者は、下請事業者に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させることは許されないとされ、また、経済上の利益は、協賛金、従業員の派遣等の名目は問わず、下請代金の支払とは独立して行われる金銭等の提供をいいます(なお、受注者が経済上の利益を提供することが製造委託等を受けた物品等の販売促進につながるなど自社にとっても直接の利益となる場合には、下請法違反とならない点には注意が必要です。)。
そのため、本設例の発注者の行為は、下請法に違反すると考えられますので、下請業者としては、①下請法違反を指摘した上で、設例のような要請の中止を求める、②公正取引委員会又は中小企業庁に相談・申立てをして調査や勧告を促す、という手段が考えられます。ただし、上記1の取引終了等の不利益の可能性には留意する必要があります。
Q7
長年継続的な取引が続いている発注者から、「新型コロナウイルスの影響で経営が悪化して、今後は、これまでどおり取引をすることができない。」との理由で、一方的に何の補償もなく契約を解除されてしまいました。取引の継続を求めることはできるのでしょうか。
A7
まず、発注者との基本契約書が契約解約について定めていればそれに従うことになるため、第一に基本契約書の有無や内容を確認しましょう。基本契約書に契約解約についての定めがある場合はそのルールに従うことが基本になります。
他方で、基本契約書に契約解約についての定めがない場合、契約書に救済を求めることはできないものの、裁判例上、委任契約・請負契約を問わず、取引が相当期間にわたり継続し、受託者が当該取引のために相当程度の資本を投下している等、受託者と発注者との間に継続的な契約関係が存在する場合には、契約の解除に正当な理由または一定期間の予告が要求されることがあります。そのため、このような場合には、設例の解除が無効になり、取引継続を求めることができる可能性があります。
もっとも、「新型コロナウイルスの影響による経営悪化」という理由が契約解除の正当理由に該当する可能性はあります。仮に、正当理由に該当しないとして取引継続が認められたとしても、取引が続いている中でどの程度の発注をするかは発注者の自由であるのが原則ですので、発注者が発注を停止してしまう可能性はあります。その点は留意する必要があるでしょう。
ただし、継続的契約の解除に関する裁判例では、同時に損害賠償請求の可否及び金額も争点となっていて、数カ月分から1年間の利益にあたる損害の賠償請求を認容しているものがあります。そこで、取引継続を求めた上で、仮に取引継続が難しければ、金銭賠償を求めるのがよいと考えます。
なお、請負契約の場合の注文者による完成前解除(民法641条)、(準)委任契約の場合の無理由解除(民法651条1項)が存在する(これらの場合は解除が認められてしまう)ことにもご留意ください。
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