経営お役立ちコラム

2020.06.01 【契約】

中小事業者等への「しわ寄せ」問題等に関する
Q&A集
契約書の内容と事前の募集内容が異なっている場合に、契約書に署名押印をしてしまって良いか。

弁護士 大上 和貴

Q
クラウドソーシングで仕事を受注したのですが、仕事に着手した後になって送られてきた契約書の内容が、掲載されていた募集内容と異なっています。署名押印してしまっていいのでしょうか。
A
署名押印をした場合、契約書のほうが、正式な契約内容と見られてしまう可能性があります。契約書の作り直しを求めましょう。

解説

クラウドソーシング等で、当初の募集内容と実際に作成された契約書の内容が異なった場合、正しい契約内容が明確ではなくなります。さらに、裁判実務上では、募集内容よりも実際に作成された契約書のほうが、契約内容を正しく反映していると見られてしまう可能性が高いです。
また、一般的に、契約書が締結されていない場合には、掲載されていた募集内容や、口頭やメールであっても双方で合意された事項が契約の内容となりますので、募集内容、契約交渉時のメモ、議事録、発注者とのメールでのやりとりなどは、証拠として残しておくべきです。
しかし、募集内容等が契約の内容になるからといって、契約書を締結する必要がないとは言えません。募集内容や事前の交渉で提示・合意されるのは納期や報酬額などの主要事項のみで、修正または業務の進行中の仕様の変更に応じる義務の程度や、解除条項などについては定めがない場合も多く見受けられますので、そういった細部について合意するため、契約書を締結する意義はあります。
発注者に対し、契約書の記載が、募集内容や自分の認識とは異なっていることを伝え、契約書の作り直しを求めましょう。
Q
上記のQで、募集内容と異なる契約書に署名押印をしてしまった場合、契約書は無効として、募集内容通りの契約を主張することはできないでしょうか。
A
錯誤無効や詐欺取消または契約の解除を主張することが考えられますが、いずれも簡単ではありません。契約書を締結する場合には、内容が自分の認識と異ならないか、十分に注意しましょう。

解説

上記の解説でも説明した通り、契約書の内容と募集内容が異なる場合、契約書が正しい契約内容と認められる可能性が高くなってしまいます。契約書の効力を争う方法としては、錯誤無効や詐欺取消または契約の解除を主張する方法がありますが、以下の通り、それぞれのハードルは低くありません。
まず、錯誤無効または詐欺取消を主張する場合には、最低でも、受注者が契約書の内容であれば仕事を引き受けるつもりではなかったことの立証が必要であり、詐欺取消の場合にはこれに加え、発注者がわざと(故意に)誤った契約書を締結させようとしたことを立証しなければなりません。そして、実際に契約書が締結されたという事実がある以上、これらの立証は必ずしも容易ではありません。
次に、仕事が完了していない場合には、契約を解除して終了させるという方法も考えられます。
契約の解除については、契約の性質が請負契約であるのか、準委任契約であるのかによって異なります。両者の違いは、簡単に言えば、請負契約は、ある仕事を完成することを約束する契約であるのに対し、準委任契約が一定の事務処理を行うことを約束する契約であるということです。
しかし、請負契約の場合には、契約書に解除を認める規定がない限り、請負人の側から理由なく解除することは困難ですので、発注者との合意による解除を検討するほかありません。
また、準委任契約の場合には、契約書に別段の定めがない限り、いつでも解除することができます(民法651条1項)が、委任者(発注者)に不利な時期に解除したときは、やむを得ない事由がない限り、委任者(発注者)に生じた損害を賠償しなければなりません(同条2項)。
このように、契約書の締結後にその効力を争うことは簡単ではありませんので、契約書の締結時には十分に、その内容を確認することが重要です。
もし、契約書の締結後に、契約書の内容が正しくないと認識した場合には、出来る限り早い段階で、そのことを発注者側に指摘し、修正するように交渉するべきでしょう。その際には、後に訴訟等になった場合に備え、交渉の内容を記録しておくことも重要です。
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