経営お役立ちコラム

2020.06.01 【契約】

中小事業者等への「しわ寄せ」問題等に関する
Q&A集
クライアントが製品や成果物の受け取りを拒否する場合の対応方法

弁護士 間嶋 修平

【2020.10.06現在】

Q
個人事業主Aは、B社から同社のホームページ上で有償提供するコンテンツ(画像等)の作成を受託し、成果物を指定の納期に納入しようとしました。しかし、B社は、自己の都合で受領を拒否しています。どのように対応すればよいでしょうか。
A
B社の資本金が1千万円を超え親事業者の要件を満たす場合,B社の行為は、下請法で禁止される受領拒否に当たります。
Aとしては、下請法違反を主張し任意の交渉を行うほか,B社が交渉に応じない場合には,公正取引委員会、中小企業庁に調査・指導を求め相談することが考えられます。

(解説)

  1. 発注者が発注した物品等の受領を拒むこと(受領拒否)は、下請法4条1項1号等に違反する可能性があります。
    そのような場合、Aとしては、どのように対応すべきでしょうか。
  2. 前提として、下請法の適用の有無は、①取引当事者の資本金又は出資の総額の区別(3億円超、1千万円超3億円以下、5千万円超、1千万円超5千万円以下)、②取引の内容(製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託)の2つの側面から判断されます。
    まず②について、本件取引は、B社のホームページ上で有償提供するコンテンツ(画像等)の作成、すなわち、同社が業として提供を行う情報成果物の作成を内容とするため、「情報成果物作成委託」に該当します(下請法2条3項)。
    次に①について、個人事業主であるAは、常に下請事業者の要件を充たすため、B社の資本金等が1千万円を超え、親事業者の要件を充たす場合には、下請法が適用されることになります。
    そして、本件取引に下請法の適用がある場合において、B社が、指定の納期にAが納入する成果物の受領を拒むことは、当該成果物に欠陥(瑕疵)があるなどAに責任がある場合を除き、Aの同意があったとしても、下請法4条1項1号に違反することになります。
  3. Aとしては、B社の受領拒否行為が下請法4条1項1号に違反することを指摘した上で、成果物の引取りを求めるなど任意の交渉を行うことが考えられます。
    それでもB社の態度が変わらない場合には、公正取引委員会や中小企業庁への調査・指導の申立て、下請法ADR(下請かけこみ寺)や訴訟手続の利用等も視野に入れて、まずは、弁護士、公正取引委員会、中小企業庁や各経済産業局その他相談窓口へ相談することをお勧めします。
  4. また、B社の資本金等が1千万円以下で、本件取引に下請法の適用がない場合であっても、B社の受領拒否行為は、優越的地位の濫用(独占禁止法2条9項5号ハ)を理由とする独占禁止法違反、契約又は信義則上の受領義務違反(民法413条1参照)が認められる可能性もありますので、併せて検討してみてください。
  5. 以上のとおり、発注者による受領拒否への対応方法は色々考えられますが、予防策として、契約書や3条書面(下請法3条に基づき、委託内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項が記載された書面)において、発注者都合の受領拒否が許されないことなどを明記しておくと良いでしょう。
東京弁護士会 中小企業法律支援センター
https://www.toben.or.jp/form/chusho1.html

公正取引委員会・下請法に関する相談・申告等窓口
https://www.jftc.go.jp/shitauke/madoguti.html

中小企業庁・下請法申告受付窓口
https://mm-enquete-cnt.meti.go.jp/form/pub/jigyokankyo/shitaukeho_shinkoku
  1. 改正民法では、受領遅滞の効果として、①受領遅滞後は、債務者の目的物保存義務を軽減すること、②受領遅滞により増加した債務の履行費用を債権者が負担すること、③受領遅滞中の履行不能が債権者の責任であることが明文化されたものの、受領遅滞に基づく損害賠償請求権及び解除の可否(受領義務の有無)は、なおも解釈に委ねられています。
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