経営お役立ちコラム

2020.06.26 【その他】

中小事業者等への「しわ寄せ」問題等に関する
Q&A集
クライアントからの誹謗中傷への対応方法

弁護士 荏畑 龍太郎

Q
クライアントが自身のSNSに当方を誹謗中傷する記事をアップロードしました。どうすればいいのでしょうか。
A
SNSなどのインターネット上の誹謗中傷やネガティブ情報によって被害を受けている場合の対応としては、①当該記事の削除を求める、②当該記事を投稿したクライアントに対し法的責任を追及する(民事上の請求(損害賠償請求等)、刑事上の責任追及(刑事告訴))ことを検討すべきです。なお、①については、当該SNSの管理者・サーバー会社に対し、任意交渉で削除を求める方法と、人格権に基づき裁判所を通じて削除を求める方法とがあります。
Q
誰に対して誹謗中傷記事の削除を求めればいいのでしょうか。
A
まず、誹謗中傷の発信者が特定されている場合には、発信者自身、すなわち、誹謗中傷する記事をアップロードしたクライアントに対して、直接削除を請求する方法が考えられます。
もっとも、削除を依頼したところで、素直に削除に応じてもらえるとは限らない他、実務上、誹謗中傷の発信者に対し、訴訟を起こし判決を得ても任意に削除してもらえるか疑わしいケースが多く、記事の削除については、判決により、削除を強制させること(直接強制)が困難であることから、誹謗中傷の発信者に対して削除請求を行うよりも、SNSの管理者やサーバーの管理者を請求の相手方として削除を求める場合が多いです。
Q
削除を求める根拠及び要件はどのようなものなのでしょうか。
A
削除請求の法的根拠としては、人格権に基づく妨害排除(予防)請求として、差止請求できることが判例及び解釈上認められています(北方ジャーナル事件(最判昭和61年6月11日))。差止請求が認められるための要件としては、人格権が違法に侵害されているといえる必要があります。
Q
削除請求の方法について教えてください。
A
任意交渉により削除を求める方法と、法的手続による方法があります。
任意交渉による削除については、SNS管理者等が用意しているオンラインフォームから削除依頼を行うことが一般的かつ簡便です。
任意交渉による削除が実現しない場合は、法的手続として、裁判所に対し、削除を求める仮処分を申し立てることを検討する必要があります。これは、名誉権やプライバシー権などの人格権に対する侵害が一応認められると判断された場合に、一定の担保金(通常は30万円程度)を供託することを条件として、裁判所が、「削除を仮に認める」という命令を発令する手続です。結論が出るまで、申立てから1か月~2か月程度であり、通常の裁判手続と比較すると迅速に削除を実現することができます。
Q
当該記事を投稿したクライアントに対して損害賠償を請求したいと考えているのですが、可能でしょうか。
A
SNSなどのインターネット上への投稿によって、名誉権やその他の権利が侵害された場合、クライアントに対し、不法行為に基づき、損害賠償を請求することが可能です(民法709条、710条)。
Q
どのような場合に、当該記事を投稿したクライアントに名誉毀損が成立するのでしょうか。
A
SNSなどのインターネット上において、特定の人物の名誉を毀損する表現を行った者は、損害賠償義務を負うことがあります(民法709条、710条)。
名誉毀損が成立するためには、①特定の人物の名誉権を侵害する表現がされたこと、②①によって特定の人物に損害が生じたことが必要であり、かつ③事実の適示に関する免責要件を満たさないことが必要となります。
このうち、①について、判例上、「名誉」とは、「人がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価」と定義されており、その人自身が主観的に有する自らの人格的価値に係る評価(いわゆる「名誉感情」)とは区別されています(最判昭和45年12月18日)。原則として、こうした社会的評価を違法に低下させる行為が名誉毀損として、損害賠償請求の対象となります。
また、③については、特定の人物の名誉を毀損する表現であっても、a)公共の利害に関する事実に係ること、b)目的が専ら公共の利益を図るものであること、c)摘示された事実が重要な部分において真実であること又は摘示された事実が重要な部分において真実であると信ずるについて相当の理由があるという要件を満たす場合には、損害賠償義務が認められない点に留意を要します(最判昭和41・6・23、最判昭47・11・16、最判昭62・4・24 )。
Q
具体的には、どのような損害を請求することが可能でしょうか。
A
最も代表的なものは、名誉毀損の表現により被った精神的苦痛に対する金銭賠償、すなわち慰謝料です。名誉毀損の表現により取引先を失う等の財産的損害が発生する場合もあります。一般的には、認められる賠償額は10万円~100万円程度が多いようですが、名誉毀損行為の態様、摘示事実の内容、表現の媒体によって、個別に判断されます。
また、投稿を法的に削除させた場合、削除に要した費用(弁護士費用等)についても請求できる可能性があります。「本件各記事が本件スレッド上に掲載されている限り、原告に対する権利侵害が継続することになるのであるから、権利侵害状態を排除するために本件各記事の削除に要した費用についても、同様に本件各記事の投稿と相当因果関係のある損害であるといえる」(東京地判平成28年2月9日)として、加害者に負担させる旨判示した裁判例があります。
Q
刑事責任を問うことは可能でしょうか。
A
SNSなどのインターネット上でなされた投稿が刑法上の名誉毀損罪(刑法230条1項)や業務妨害罪(刑法233条)に当たる可能性があります。そのような悪質なケースについては、刑事告訴や被害届の提出等を行い、刑事事件として対処することが可能です。