経営お役立ちコラム

2020.08.25 【契約】

中小事業者等への「しわ寄せ」問題等に関する
Q&A集
新規に取引を開始する/契約する場合に調査すべき事項
(取引相手が法人である場合)

弁護士 高橋 幸宏

Q
新たな取引相手と契約を締結する場合,契約締結前にどのようなことを調査すべきでしょうか(取引相手が法人である場合)。
A
取引相手の実在性や代表者,取引相手の支払能力等を調査する必要があります。
  1. 調査の必要性
    取引相手が架空の法人を名乗っていた場合,当該法人からは報酬の支払を受けることができません。また,取引相手に支払能力がない場合,たとえ裁判で勝訴判決を得たとしても,事実上報酬の支払を受けることは困難です。これではせっかくの業務が徒労に終わってしまうため,あらかじめ取引相手の実在性や支払能力等を調査しておく必要があるのです。
  2. 取引相手の実態調査
    1. (1) 取引相手の実在性
      実在しない法人に対して報酬を請求することはできないため,まずは取引相手の実在性を調査する必要があります。
      これは,商業登記簿によって確認することができます。商業登記簿とは,設立日時や住所,資本金,役員など法人に関する重要な事項が記載された記録で,法務局で管理されています。商業登記簿謄本は,法人名と本店所在地が分かれば誰でも申請することができ,法務局窓口での申請,郵送申請だけでなく,オンライン申請も可能です。
    2. (2) 取引相手の代表者
      契約締結権限を有するのは原則として法人の代表者(多くは代表取締役)であり,法人の代表者でない者が締結した契約は無効となる可能性があります。そこで,法人の代表者が誰であるかを確認しなければなりません。
      これも,商業登記簿によって確認することができます。相手方が提示した名刺や会社案内の確認のみでは,不十分です。
    3. (3) 代表者以外の者と契約を締結する場合
      実務上,取引相手の営業部長等の役職者が,会社から権限を与えられて契約を締結することがあります。また,取引相手の外部の者が,取引相手の代理人として契約を締結することもあります。これらの場合には,目の前にいる相手が契約締結権限を有しているか,慎重に判断しなければなりません。
      まず,営業部長等の役職者と契約を締結する場合,取引相手内部の職務権限規程等を確認できれば良いでしょうが,社内文書はそう簡単には見せてもらえません。そのため,代表取締役と契約を締結させるように働きかけることも,検討してよいと思われます。次に,取引相手の代理人と契約を締結する場合には,契約締結の権限を確認するため,取引相手の代表取締役が署名捺印した委任状,印鑑証明書を提出させることが考えられます。
  3. 取引相手の支払能力調査
    取引相手が資産を持たない場合には,事実上報酬を請求することが困難であるため,取引相手の有する資産,具体的には不動産,預貯金,有価証券等を調査しなければなりません。また,継続的に取引をすることが予定されている場合には,取引相手の経営状態も調査することが望ましいでしょう。
    調査の方法としては,まず,決算書類の写しの提出を求めることが考えられます。次に,不動産の調査方法として,取引相手の本店所在地の不動産登記簿謄本を取得し,本社の物件が本人名義であるか,担保が設定されているか等を確認することが考えられます(不動産登記簿謄本は,土地または建物の地番が分かれば誰でも申請することができ,法務局窓口での申請,郵送申請だけでなく,オンライン申請も可能です)。さらに,一定の費用が発生いたしますが,信用調査会社の資料を入手し,取引銀行や取引先などを把握することも考えられます。もし紹介者がいるのであれば,紹介者から取引相手の聞き取りを行うのもよいでしょう。たとえ,時間的・費用的制約からこれらの調査が困難な場合であっても,最低限,インターネット上の情報を検索し,取引相手が信用に足る法人であるか,調査しておく必要があります。
    調査の結果,取引相手にめぼしい資産がないことが判明した場合には,保証金の要請や,連帯保証人を付けるなどして,支払能力の不足を補完することも検討してください。
東京弁護士会 中小企業法律支援センター
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