経営お役立ちコラム

2020.10.01 【会社経営】

ストック・オプションの基本(下)(「ゼイセイテキカク」って何?)

弁護士 門倉 洋平

ストック・オプションを設計する際や、付与された新株予約権を行使する際には、新株予約権に関連する税金にも配慮をする必要があります。
一定の要件を満たすストック・オプションは、「税制適格ストック・オプション」(以下「適格」と呼んでいきます )として税制上の優遇措置を受けることができます。他方、税制上の優遇措置を受けない通常のストック・オプションをこれと区別して「税制非適格ストック・オプション」(以下「非適格」と呼んでいきます)と呼ぶことがあります。
ここでは、個人にストック・オプションを付与することを前提に、優遇措置の内容と、優遇措置を受けるための要件について解説をしていきます。

「税制適格」の優遇措置(その1)~課税のタイミング~

1つ目の優遇点としては、課税されるタイミングが遅くなる点が挙げられます。
「非適格」の場合、新株予約権の行使時と株式の売却時の2度に分けて課税されるのに対し、「適格」の場合、株式の売却時に一括して課税されます。つまり、「適格」の方が課税されるタイミングが遅くなります。
ここで、ストック・オプションを行使した人の立場から考えると、行使時には行使価額だけのお金の払込みをしただけで、利益は確定しない(現金収入はない)状態です。このため、「非適格」として行使時に課税されると、現金収入がないのに、さらに税金(※1)まで支払わなければならない状況となり、資金繰りに影響します。「適格」の場合、行使時には課税されず、売却時に一括して課税されるため、株式の売却代金(現金収入)から、税金を支払えば済み、資金繰りへの影響を抑えることができます。

※1 所得税、住民税等の負担が考えられます。

「税制適格」の優遇措置(その2)~所得の種類~

2つ目の優遇点としては、所得の種類が異なる点が挙げられます。
非適格の場合、新株予約権の行使時の所得が「給与所得」(※2)、株式の売却時の所得が「譲渡所得」として取り扱われるのに対し、適格の場合、株式の売却時に一括して「譲渡所得」として取り扱われます。
給与所得として取り扱われる場合、ストック・オプション以外の給与等と合算されて税率(※3)が決定されるため、譲渡所得よりも税率が高くなる可能性があります。

※2 「事業所得」又は「雑所得」となる場合もあります。
※3 給与所得の税率は累進税率(所得が大きいほど高い税率が課される)となります。

「税制適格」となるための要件

これらの優遇措置を受けるための要件(主要なもの)は以下のとおりです。

  1. 無償発行であること
    →有償発行の場合は税制適格とはなりません。
  2. 取締役又は使用人への付与であること
    →監査役に付与する場合は税制適格とはなりません。
  3. 発行会社と付与対象者との間の契約で以下の定めがあること
    1. (1)権利行使が付与決議の日から2年を経過した日から10年を経過する日までの間に行われること
    2. (2)権利行使の総額が年間1,200万円以内であること
    3. (3)権利行使価額は当該契約締結時の時価以上であること
    4. (4)権利行使にかかる新株の発行等が会社法上の決議事項に反しないこと
    5. (5)新株予約権につき、譲渡をしてはならないこととされていること
    6. (6)新株予約権の行使により取得する株式につき、取得後直ちに会社を通じて振替口座簿に記載等する方法により管理等されるものであること

詳細は、弁護士等にご相談ください。

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