経営お役立ちコラム

2020.10.05 【契約】

中小事業者等への「しわ寄せ」問題等に関する
Q&A集
個人事業主・フリーランスに労働関連法令が適用される場合の有無

弁護士 古賀 聡

Q
私は個人事業主として、仕事の依頼主から提示された業務委託契約書にサインし、契約を締結しましたが、労働基準法等の労働関連法令が適用されることはないのでしょうか。
A
労働関連法令が適用されるかどうかは、契約書のタイトルや文言等によってのみで形式的に決まるのではなく、仕事の依頼主と仕事を受ける側の実質的な関係性によって決まることになります。そのため、契約書が「業務委託契約書」というタイトルになっていても労働関連法令が適用される場合があります。

解説
  1.  労働関連法令とは、労働基準法、労働契約法、最低賃金法、賃金支払確保法、公益通報者保護法、労災保険法、男女雇用機会均等法、育児介護休業法、労働者派遣法などを指します。
     これらの法令が適用されると、契約関係は「雇用契約」、仕事の依頼主は「使用者」、仕事を受ける側は「労働者」と扱われます。仕事を受ける側(労働者)としては、①仕事の依頼主(使用者)から契約を解除(解雇)されにくくなる、②依頼主(使用者)には仕事を受ける側(労働者)の安全に配慮する義務が生じる、③仕事を受ける側(労働者)が受け取る対価(賃金)について最低賃金が法律によって定められているといったような保護を受けるメリットがあります。
     そして、これらの法令が適用されるためには、仕事を受ける側が、いわゆる「労働者」に該当する必要があります。
     では、仕事を受ける側が「労働者」に該当するのはどのような場合なのでしょうか。
  2.  仕事を受ける側が「労働者」に該当するかは、契約書のタイトルや文言等によって形式的に決まるのではなく、仕事の依頼主と仕事を受ける側との間に「使用従属関係」があるかという実態によって決まります。
     このような「使用従属関係」があるかどうかの判断である「労働者」の該当性が問題になった裁判例は、概ね、次の判断基準を総合的に考慮して判断しています。
    1. (1) 仕事の依頼に対する諾否の自由の有無
    2. (2) 業務遂行上の指揮監督の有無
    3. (3) 時間的場所的拘束性の有無
    4. (4) 労務提供の代替性の有無
    5. (5) 報酬の算定方法・支払方法(労務の対償といえるかどうか)
    6. (6) その他の事情(機械器具の負担、報酬額等に現れた事業者性、専属性、公租公課の負担等)
  3.  「労働者」該当性が問題になった裁判例は多数あり、具体的には、運転手、取締役、研修医、一人親方の大工、タレント、ホスト・ホステス、バイシクルメッセンジャー等が挙げられます。
     そして、これらの裁判例において、例えば、同じ「ホスト・ホステス」という職種であっても、労働者性を肯定するものと、労働者性を否定するもののいずれも存在しているなど、「労働者」該当性は具体的な事案に即した判断が必要になります。この点の判断が付きにくければ、個別に弁護士に相談することをお勧めいたします。
  4.  以上のように労働関連法令が適用されるかどうかはケースバイケースということになります。
     重要なのは、まず、契約を締結するにあたっては、自らが望んでいる仕事の実態と整合性のとれた契約形態を選択するように交渉することです。例えば、雇用契約よりも自由度の高い業務委託契約のメリットを享受したければ、依頼者の依頼内容が個別に仕事の進め方等について裁量を認めていなかったり、厳しい時間的場所的拘束を課したりするようなものである場合には、自由度の高い内容(例えば、拘束時間の短縮、リモートワークの容認など)での契約の締結を求め、双方の意向が合致しなければやむなく契約を断るという判断もあり得るかと思われます。
     次に、契約締結後に業務に従事したところ、契約当初想定していたよりも条件や環境が劣悪だったというケースですが、仕事の実態としても雇用契約に該当せず業務委託契約に該当する場合には、雇用契約のような厳しい時間的場所的な拘束がない業務委託契約のメリットを活かして、他の仕事との兼業、他の依頼者への営業活動をすることも検討すべきでしょう。これに対して、形式的には業務委託契約として契約を締結したものの、仕事の実態は雇用契約に該当するような場合には、後の紛争(例えば、一方的な報酬減額、契約解除、業務上の災害に遭う等)発生において自らに有利な立場で主張ができるように、自身の労働者性を裏付けられる客観的な資料(上記2のポイント参照)を収集しておかれると良いでしょう。