経営お役立ちコラム

2021.01.25 【契約】

中小事業者等への「しわ寄せ」問題等に関する
Q&A集
下請法が適用されない場合の対応方法

弁護士 古賀 聡

Q
当社は食材の卸売りを業としており、継続的に取引をしている外食チェーン店を営むA社からの受注が当社の売上の大部分を占めております。そのような中、A社より、「コスト削減のため」という理由で、何らの協議もなく一方的に、「今後の仕入価格(卸価格)は2割減額とさせて頂く。応じないと取引を打ち切らせてもらう。」と要請され、当社の経営はA社からの売上に依存しているため、この要請を受け入れざるを得ませんでした。このように卸価格が大幅に減額され、当社の経営は非常に苦しくなっております。当社の資本金は100万円で、A社の資本金は1000万円であるところ、インターネットで調べると下請法が適用されないと伺いました。この場合、どのように対応したら良いのでしょうか。
A
A社の行為は、A社の資本金が1000万円を超えないため、下請法は適用されないのですが、独占禁止法の優越的地位の濫用(対価の減額)に該当する可能性があります。そこで、同法違反を主張し、任意の交渉を行うほか、A社が交渉に応じない場合には、公正取引委員会への相談・申告や、場合によっては減額合意の無効を主張して裁判所に訴訟提起するといった方策が考えられます。

解説

  1. 本件のように親事業者がその地位を利用して下請事業者に対して不当に低い下請金額を押し付ける行為は、下請法における「買いたたき」と呼ばれるものなのですが、下請法は、親事業者の資本金が1000万円を超えない場合には適用されません。もっとも、下請法に該当しなくとも、本件のA社の行為は、独占禁止法2条9項5号ハが定める対価の一方的設定に該当する可能性があります。以下、説明いたします。
  2. まず、独占禁止法とは、正式名称を「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」といい、その目的は、公正かつ自由な競争を促進し、事業者が自主的な判断で自由に活動できるようにすることにあります。つまり、市場メカニズムを正しく機能させ、事業者間で適正な競争をさせることによって、消費者の利益を確保するということに独占禁止法の目的があるのです。
    そして、独占禁止法は、下請法のように資本金や取引内容によって画一的に適否が決まるものではないため、下請法が適用されない場合であっても、独占禁止法が適用される場合があります。
    独占禁止法は、私的独占やカルテル等の様々な行為を規制しているのですが、19条において、不公正な取引方法を禁止しています。この不公正な取引方法については、独占禁止法や公正取引委員会が指定したものに分けられ、様々なものが存在していますが、本件で問題となるのは、独占禁止法2条9項5号が定める「優越的地位の濫用」というものです。
    この「優越的地位の濫用」とは、自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が、取引の相手方に対し、その地位を利用して、正常な商慣習に照らし不当に不利益を与える行為を指します。この定義だけでは曖昧で、どのような行為が禁止されているのか一見してわからないのですが、具体例としては、親事業者が、①自社の製品の購入や利用を強制する、②下請事業者の従業員の派遣を要請する、③協賛金の負担を要請する等といったものが挙げられます。
    本件で問題となるのは、この「優越的地位の濫用」の中の対価の一方的設定(独占禁止法2条9項5号ハ)です。
  3. 続いて、本件が「優越的地位の濫用」の中の対価の一方的設定に該当するのかを検討します。
    まず、「優越的地位の濫用」の規制が適用されるためには、文字通り、親事業者が下請事業者との関係で優越的地位にあることが必要となります。具体的には、下請事業者にとって親事業者との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,親事業者が下請事業者にとって著しく不利益な要請等を行っても,下請事業者がこれを受け入れざるを得ないような場合を指し、下請事業者の親事業者に対する取引依存度,親事業者の市場における地位,下請事業者にとっての取引先変更の可能性,その他親事業者と取引することの必要性を示す具体的事実を総合的に考慮し、個別的に判断されるものとされています。本件でいうと、A社からの受注が当社の売上の大部分を占めているという事実はA社が優越的地位にあることを肯定する有力な事情となり得ます。
    次に、「優越的地位の濫用」の中の対価の一方的設定に該当するためには、下請事業者が今後の取引に与える影響等を懸念して当該対価設定を受け入れざるを得ない場合、すなわち、対価設定が下請事業者の自由かつ自主的な判断によらずになされた場合に限られると解されております。本件でいうと、何らの協議もなく一方的に減額を要請した、要請の際に取引打ち切りの事実を告知したという事実は、対価設定が下請事業者の自由かつ自主的な判断によらずになされたことを肯定する有力な事情となり得ます。
    これらの他にも、正常な商慣習に照らして下請事業者に不利益が生じているという要件があるのですが、本件の一方的な卸価格の減額は、同要件を特に問題なく充足すると考えられます。
    したがって、本件のA社の行為は「優越的地位の濫用」の中の対価の一方的設定に該当する可能性が相当程度あると考えられます。
  4. 以上から、A社に対しては、独占禁止法違反を主張し、任意の交渉を行うほか、A社が任意の交渉に応じない場合には、公正取引委員会に相談・申告することが考えられます。
    そして、公正取引委員会の調査の結果、「優越的地位の濫用」の中の対価の一方的設定に該当すると判断された場合、公正取引委員会において、排除措置命令(違反行為をした者に対して、その違反行為を除くために必要な措置を命じること)や、今後も違反行為が継続される場合には課徴金納付命令が出される可能性があります。
    また、場合によっては減額合意の無効を主張して裁判所に訴訟提起するといった方策が考えられます。なお、判例上、独占禁止法違反行為が直ちに無効となるとは考えられておらず、個別具体的な判断となると解されておりますので、訴訟提起を視野に入れる場合には、独占禁止法に通じた弁護士に相談するのがよいでしょう。