経営お役立ちコラム

2021.03.19 【契約】

中小事業者等への「しわ寄せ」問題等に関する
Q&A集
クライアントから身に覚えのない損害賠償請求を受けた場合の対応方針

弁護士 荏畑 龍太郎

Q
クライアントから身に覚えのない損害賠償請求を受けました。どうすればよいでしょうか。
A
まずは、請求の内容をよく確認し、本当に身に覚えがないのかどうか、事実確認を行うことが必要です。その際、クライアントからの請求方法や請求内容に注意をするべきでしょう。また、訴状や支払督促など既に法的手続きが取られているにもかかわらず、これを無視する等した場合には法的に不利益を被る可能性が極めて高いので、請求が届いた時点で速やかに弁護士等の専門家に相談するべきでしょう。
Q
身に覚えがないのに、なぜ、事実確認が必要なのでしょうか。
A
クライアントから請求された内容について、自分としては、身に覚えがなかったとしても、契約の債務不履行(民法415条)や、不法行為(民法709条)等、何らかの法律上の根拠に基づいて損害の賠償請求がされている可能性があるので、請求の内容を確認せずに安易に放置すべきではありません。また、穏便に済まそうとして、クライアントの請求内容を認める旨の回答をしてしまった場合、後々、訴訟等の法的手続きを取られた際に、クライアントの請求が認められる証拠になってしまうリスクもあります。
したがって、弁護士等の専門家に相談するなどしながら、事実確認を速やかに行い、対応を検討する必要があります。請求内容が事実と異なるのであれば、以下の点に留意して、一定の対応を取ることが肝要です。また、仮に請求内容が事実であることが判明した場合、法的な反論が可能な場合もありますので、まずは弁護士等への相談と事実確認を行うべきです。
Q
クライアントからの請求内容を検討する際の法律上の留意点はありますか。
A
まず、請求内容の検討にあたっては、届いている請求の方法に準じて、以下の点に留意しておく必要があります。
クライアントにより訴訟が提起され、訴状が送達されている場合に、裁判所からの呼び出しに応じず、裁判期日に欠席し、擬制陳述の対象となるような答弁書等を提出していない場合、あらかじめ送達された訴状に記載された事実を自白、すなわち相手方の言い分を認めたものとみなされることがあります。これを「擬制自白」(民事訴訟法159条1項・3項)といいます。
加えて、クライアントからの請求内容の形式が、「支払督促」(同法382条以下)であった場合には以下の注意が必要です。支払督促とは、紛争当事者を呼び出して、審尋(聞き取り調査)せずに債権者が申し立てた書面だけの審査で強制執行ができてしまう(裁判官ではなく裁判所書記官が作成する仮執行宣言付き支払督促を確定判決と同じように債務名義にしてしまう)特別な訴訟手続です(同法382条以下)。
支払督促又は仮執行宣言を付した支払督促の送達を受けた場合、送達を受けた日から2週間以内に、その支払督促を発した裁判所書記官の所属する簡易裁判所に「督促異議の申立て」をする必要があります(同法386条2項、391条1項)。万が一、異議の申立てを怠った場合には、上述の手続きにより、債務名義が成立し、自分の財産等に対して、差し押さえ等の強制執行されてしまう危険があります。したがって、支払督促が届いた時点で速やかに弁護士等の専門家に相談するべきでしょう。
Q
時効との関係で留意すべき点はありますか。
A
債権の消滅時効(民法166条)の時効期間が本来満了していたにもかかわらず、クライアントからの請求を認める旨の回答をしてしまった結果、時効の成立により、本来支払いを免れることができたにもかかわらず、時効の成立を主張できなくなり、支払をしなければならなくなるリスクがあります。これを、「時効完成後の債務承認」といいます。
判例上、時効完成後に一部弁済をするなど自分の債務を承認した場合には、自分の債務を承認する行為は、債権者に対して、以後、時効を援用しないという期待を抱かせる行為であることなどから、仮に時効完成を知らなかったとしても、信義則上、時効援用権を喪失すると判示されています(最高裁昭和41年4月20日判決)。

以上

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