経営お役立ちコラム

2022.04.20 【労務】

同一労働・同一賃金に関する
Q&A集
食事手当・給食手当について、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で差異を設ける場合、どのような点に注意すればよいですか。

弁護士 上田 孝明

Q
食事手当又は給食手当について、正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間で差異を設ける場合、どのような点に注意すればよいですか。
A
食事手当又は給食手当は、労働時間の途中に食事のための休憩時間がある労働者に対する食費の負担補助として支給される性質の手当ですので、勤務形態や所定労働時間の相違等を考慮した上で、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇の相違を禁止したパート有期法8条に違反しないように注意する必要があります。

(解説)

  1. 食事手当又は給食手当は、いずれも同じ意味で、「労働時間の途中に食事のための休憩時間がある労働者に対する食費の負担補助として支給される」手当のことをいいます。
    パート有期法8条では、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇の相違を禁止するという、いわゆる均衡待遇のルールを定めています。具体的には、両者の職務内容、職務内容・配置の変更範囲その他の事情のうち、食事手当を含む労働条件の性質や支給する目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならないと定められています。
  2. 食事手当については、厚生労働省が2018年12月28日に作成した同一労働同一賃金ガイドライン(短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針⦅厚生労働省告示第430号⦆)に、原則となる考え方及び具体例が挙げられています。この原則となる考え方・具体例に反した場合、その相違が不合理と認められる等の可能性があります(ガイドライン3頁「第2 基本的な考え方」)。

    ガイドライン12~13頁

    また、ガイドラインには、「具体例に該当しない場合についても、不合理と認められる待遇の相違の解消等が求められる。」と記載されています(ガイドライン3頁「第2 基本的な考え方」)。具体例に該当しない場合についても、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で、不合理な相違を生じさせないよう規定しておく必要があります。
    その他に、ガイドラインには、「各種手当等の賃金に相違がある場合において、その要因として通常の労働者と短時間・有期雇用労働者の賃金の決定基準・ルールの相違があるときは、「・・・将来の役割期待が異なるため、賃金の決定基準・ルールが異なる」等の主観的又は抽象的な説明では足りず、賃金の決定基準・ルールの相違は、・・・職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものの客観的及び具体的な実態に照らして、不合理と認められるものであってはならない」とも記載されています(ガイドライン8頁「第3 短時間・有期雇用労働者 1 基本給」(注)部分)。これは食事手当や給食手当等の「各種手当等」にも妥当する考え方です。正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で単に将来の役割期待が異なるという理由だけでは、手当の相違が不合理とされる可能性があります。
  3. 食事手当又は給食手当の相違の不合理に関しては、ハマキョウレックス事件最高裁判決(平成30年6月1日最高裁第二小法廷判決判タ1453号58頁)が参考になります。この事件はガイドラインが定められる以前の事件で、被告(上告人)の会社と有期労働契約を締結して勤務していた有期雇用労働者の原告(被上告人)と正社員との間で給食手当をはじめとした賃金等に相違があったことが労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否かが争われました。被告の会社においては、正社員に対してのみ、所定の給食手当を支給することとされていました。最高裁は、次のように指摘し、被告の会社の乗務員のうち正社員に対して上記の給食手当を支給する一方で、契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、不合理であると評価し、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとしました。
    • 給食手当は、従業員の食事に係る補助として支給されるものであるから、勤務時間中に食事を取ることを要する労働者に対して支給することがその趣旨にかなう。
    • 被告の会社の乗務員については、契約社員と正社員の職務の内容は異ならない上、勤務形態に違いがあるなどといった事情はうかがわれない。
    • 職務の内容及び配置の変更の範囲が異なることは、勤務時間中に食事を取ることの必要性やその程度とは関係がない。
    • 給食手当に相違を設けることが不合理であるとの評価を妨げるその他の事情もうかがわれない。
    ガイドラインもこの判例を踏まえて作られたものと思われます。例えば、ガイドラインでは、「その労働時間の途中に昼食のための休憩時間がある通常の労働者に支給している食事手当を、その労働時間の途中に昼食のための休憩時間がない(例えば、午後2時から午後5時までの勤務)短時間労働者には支給していない場合」を(問題とならない例)としている一方で、「通常の労働者には、有期雇用労働者に比べ、食事手当を高く支給している場合」を(問題となる例)としています。
    もっとも、これは事例判断であり、法改正前の事件ですので、そのまま他の事件に当てはまるわけではないことに注意する必要があります。
  4. 正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の相違を解消するため、就業規則を変更すること等により正規雇用労働者も含めて食事手当又は給食手当を廃止又は減額することが考えられます。しかしながら、労働契約の内容である労働条件を不利益に変更する場合にも原則として労働者の合意が必要です(労働契約法9条)。例外的に労働者の合意なく就業規則を不利益に変更することが認められますが、その場合であっても、その変更は合理的なものである必要があります(労働契約法10条)。ただし、例外的に認められるとしても非正規雇用労働者のために食事手当又は給食手当が一方的に廃止された・減額されたと思われては、正規雇用労働者の生活への影響やモチベーションの低下にもつながりかねませんので、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差を解消するにあたり、事業者が就業規則の変更等により一方的に正規雇用労働者も含めて食事手当又は給食手当を廃止又は減額することは適切な対応とはいえません。
  5. 食事手当又は給食手当は勤務中に安心して食事をとることができるようにして、労働者の生活を維持しモチベーションを高めるために支給されるものです。そのため、労使により、会社の財務状況や各労働者の個別具体の事情に応じて食事手当又は給食手当について議論していくことが必要となります。その際には、弁護士等の専門家に相談することが重要です。
    同一労働同一賃金への対応が未了であり、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で食事手当等の待遇に差異を設けている場合には、厚生労働省作成の取組手順書等を参考に、同一労働同一賃金に違反しないような賃金制度の構築・運用となっているか確認しなければなりません。同一労働同一賃金に違反しないような賃金制度の構築・運用にあたっては、こちらの記事も参考にしてください。

以上の記事に関するご不明点、同一労働同一賃金を含む働き方改革への対応その他労務問題に関するご相談は、中小企業・個人事業主の法的支援を扱う「東京弁護士会中小企業法律支援センター」の相談窓口まで、お気軽にお問い合わせください。

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