経営お役立ちコラム

2020.06.10 【新型コロナウイルス関連】

新型コロナウイルス対策に関するQ&A(不動産賃貸借関係)

【2022.8.8現在】

※民法(債権関係)改正法の施行日は令和2年4月1日ですので、同日より前に締結された賃貸借契約には改正前の民法が、同日以降に締結された賃貸借契約には改正後の民法が適用されます(改正附則第34条1項)。
なお、同日より前に締結された賃貸借契約であっても、同日より後に合意更新した場合には、更新後の賃貸借契約には改正後の民法が適用されると解釈されています。

Q1 【賃料の支払が難しい場合】
店舗を経営していますが、新型コロナウイルスの感染症の拡大により休業を余儀なくされ、収入がなく経営状況がかなり厳しい状況にあります。そのため店舗の賃料の支払いができそうにないのですが、どうしたらよいでしょうか。
A
賃料の支払いが厳しい場合に、国等からの給付金であったり、金融機関からの借り入れなどで資金繰りを改善することにより対応していく方法と賃料の免除、減額、支払猶予を求めていくという方法があります。前者については「新型コロナウイルス対策に関するQ&A(資金繰り編・改訂版)」をご参照ください。本項では後者の賃料の免除、減額、支払猶予について順次ご説明いたします。

まず、賃料の免除、減額、支払猶予が認められるかどうかは賃貸人・賃借人間の賃貸借契約書にどう定められているかどうかに関わります。まずは、契約書をチェックしてみてください。そこに上記に関連する条項がなければ、民法等の法律の定めに従うことになります。
下記においては賃貸借契約に規定がない場合について触れています。
  1. 賃料の免除
    賃貸人及び賃借人のいずれの原因でもない、いわゆる「不可抗力」により休業を余儀なくされ、貸す債務を履行することができなかった(履行が不能であった)場合(以下「不可抗力による履行不能の場合」といいます。)には、賃借人は貸す債務が履行されない範囲で賃料の支払債務を免れることができます(改正前民法536条1項)。 なお、改正後民法536条1項においては、「債務者は、反対給付を受ける権利を有しない」という規定が「債権者は、反対給付の履行を拒むことができる」という規定に改められており、改正前民法とは異なり、当然に賃料の支払い義務が消滅するわけではないことに注意が必要です。
    どのようなケースが不可抗力による履行不能の場合に該当するかは、社会通念に従い個別具体的に判断されるものとされており、一義的なものではなく必ずしも明らかではありません。
    例えば、新型コロナウイルスに関連して、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下「感染症法」といいます。)に基づく建物の立入等の禁止や交通の制限・遮断により建物の使用禁止処分等が実施された場合には、法律上その建物の使用が禁止されますので、その建物の賃貸借については、不可抗力による履行不能になるものと考えられます。この場合には、建物の立入等の禁止がされ、貸室を使用できず、休業を余儀なくされた日数に応じて日割計算する等の方法により、賃貸人の貸す債務が履行されなかった割合を算出し、その割合に対応した範囲で、賃借人は賃料支払債務を免れることになると考えられます
    また、上記の感染症法の使用禁止処分等のように強い処分ではありませんが、令和2年4月7日に発出された緊急事態宣言に伴い、緊急事態宣言の指定区域では、事業者に対して、新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下「特措法」といいます。)に基づく行動計画を実施するために必要な協力の要請(特措法24条9項)及び施設の使用の制限又は停止その他の措置の要請・指示(特措法45条2項・3項)をとることができるとされています。
    このうち、行動計画を実施するために必要な協力の要請(特措法24条9項)は、法的義務を課すものではなく、任意の協力を求めるものであり、令和2年4月7日の緊急事態宣言以降、同宣言の指定区域となった都道府県において一定の遊興施設、大学・学習塾等、運動・遊戯施設、劇場等、集会・展示施設、商業施設に対して施設の使用停止及び催物の開催の停止要請(=休業要請)がなされていますが、これらは、法律上の位置付けとしては「任意の協力要請」です。
    次に、施設の使用の制限又は停止その他の措置の要請・指示(特措法45条2項・3項)については、緊急事態宣言がなされた場合に、施設管理者等に要請及び指示ができるというものです。「要請」に応じる法的義務はないと解されていますが、「指示」については法的義務を課すものと解されています(ただし、違反に罰則はありません。)。なお、これらの措置がとられた場合、公表されることになります(特措法45条4項)。
    これらの法律に基づく要請・指示等の措置がなされた場合、法律上の根拠のない要請とは異なり、法律上の義務や違反に対する罰則の有無にかかわらず、その時点の諸々の状況に鑑み、事実上の強制力を伴うと評価されるべきケースもありますから、そのようなケースでは、上記の感染症法に基づく使用禁止処分等と同様に考え、不可抗力による履行不能になるものと考えられます。

    もっとも、前記のとおり、どのようなケースが不可抗力による履行不能の場合に該当するかは一律に線引きすることは困難であり、多くのケースでは、休業の原因や周辺事情等を踏まえ、賃貸人と賃借人の間で休業の原因等について協議し、賃借人が賃料の支払い義務を免れるのかどうかを決定していくことが必要になるものと思われます。
    なお、法律上どうなるかという検討とは別に、昨今の新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点からの外出自粛要請や一部事業者に対する営業自粛要請等の影響により、一時的に資金的な困難を生じている事業者も数多く見られる中で、このような事業者に対し、賃料の一部免除等の柔軟な措置を講ずることが、賃借人である事業者の破綻等を避けることにつながり、結果として、賃貸人及び賃借人の双方にとって中長期的な観点からメリットがある場合もあると考えられます。まず賃貸人としては賃借人から協議の申し入れがあった場合には、協議に応じる姿勢が求められとともに、当事者双方においてはそれぞれの契約を踏まえつつ、それぞれの立場に配慮し、誠実な交渉等を行うことが大事ではないかと思います。
    また、不動産所有者が賃料を減免した場合に、一定の条件を満たす場合には、その減免による損失の額が寄付金の額に該当せず、税務上の損金として計上できるとされています(国税庁HP「4 新型コロナウイルス感染症に関する税務上の取扱い関係 法人税に関する取扱い」問4(令和2年4月30日更新))ので、積極的に活用されるべきでしょう。
  2. 賃料の減額
    改正後民法が適用される賃貸借契約については、改正後民法611条1項により、「賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益することができなくなった場合」において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、当然に減額される旨が定められています。したがって、改正後民法が適用される賃貸借契約について、賃貸借の目的物が「使用及び収益することができなくなった」(以下「使用不能」といいます。)といえ、かつ、そのことについて「賃借人の責めに帰することができない事由によるもの」である場合には、賃料の減額が認められることになります。休業が全くの賃借人の判断により行われている場合には、「賃借人の責めに帰することができない事由によるもの」とはいえませんので、賃料の減額は認められないと考えられますが、休業が使用不能によるものであり、かつ、その使用不能が賃借人によるものではないといえる場合には、改正後民法611条1項により賃料の減額が認められることになります。もっとも、どのような状況が使用不能に該当するかについては、1に記載の不可抗力による履行不能の場合と同様、一律に線引きすることは困難であり、個別具体的なケースごとに検討することが必要になると考えられますし、そもそも、改正が施行された本年4月1日からの経過期間が比較的短いことから、改正後民法が適用される賃貸借契約の数は現時点ではまだ限定的であると思われます。
    これに対し、改正前民法が適用される賃貸借契約については、改正前民法611条1項は、「賃借物の一部滅失」場合にのみ賃料減額を請求できる旨が定められています。したがって、改正後民法が適用される賃貸借契約とは異なり、当然に賃料減額が認められることにはならないと考えられます(もっとも、1に記載のとおり、不可抗力による履行不能の場合には、賃借人は貸す債務が履行されない範囲で賃料の支払債務を免れることになりますので、実質的に見て賃料の減額と同じような効果が生じることはあり得ることになります。)。
    また、上記の民法の規定以外にも、借地借家法32条1項は、賃借人に対し、一定の場合に賃料の減額を請求できる権利(以下「賃料減額請求権」といいます。)を定めているため、この賃料減額請求権を行使して減額を求めることも考えられます(なお、賃貸借契約が、定期建物賃貸借契約である場合には、賃料減額請求権が排除されている場合がありますので、締結済の賃貸借契約を特に確認することが必要となります。)。
    賃料減額請求権による賃料減額が認められるには、現状の賃料が「不相当」であると判断されることが必要となり、その際には、例えば、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の減少 、土地若しくは建物の価格の低下 、その他の経済事情の変動、近傍同種の建物の借賃 、現行の借賃が定められてからの相当期間の経過 、当事者間の主観的個人的な事情の変化などが考慮要素となります。
    もっとも、この賃料減額請求権は、一時的な事象というよりは、ある程度の長期的な事情の変化による賃料の相場の変動に対応するためのものであり、今回の新型コロナウイルスの感染拡大に起因する事象は、直ちに賃料の相場に影響するものとは言い難いことから、新型コロナウイルス感染症の影響により休業を余儀なくされたとしても、そのことで直ちに賃料が「不相当」と判断される可能性は低く、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う休業等を理由とした減額請求は現時点では認められがたいと考えられます。

    ただし、新型コロナウイルス問題が長期化し、日本経済全体が低下する等の影響が生じた場合には、日本の不動産市場における賃料相場もそれに伴い低下すると考えられますので、そうなった場合、現状の賃料が「不相当」と判断されることはあり得ると考えられます。
    なお、賃料減額請求権が行使された場合、減額されるのは将来の賃料であり、過去に遡って減額を請求できるものではないため、現時点で賃料の支払いをどうするかということについて対応ができず、請求後の賃料の支払いを軽減するためのものとして適用できるかどうか検討するための制度となります。
    さらに、民法の一般的な解釈として、事情変更の原則・信義則の適用により、著しい経済事情の変動があった場合に、賃料の減額請求が認められる場合もあります。裁判例では、「経済情勢の大幅な変動等による貨幣価値の大幅な変動等定期建物賃貸借契約締結時において、契約当事者間において想定しえない事態が生じた場合であって、賃料を増減額することが契約当事者間の衡平に資する等特段の事情がある場合には、定期建物賃貸借契約であっても賃料の増減額を請求することができると解するのが相当である」(東京地判平成27年6月9日)といった規範を示しているもの等があります。もっとも、この規範に該当する事例としては急なインフレ等が想定されていると思われ、実際に同裁判例では、東日本大震災による賃料相場の変動は上記の規範に該当しないと判断されていますので、新型コロナウイルス感染症の影響により休業を余儀なくされたとしても、そのことで直ちに事情変更の原則・信義則の適用により賃料の減額が認められる可能性は低いものと思われます。

    以上より、賃貸借契約書の規定により、賃料減額が可能となるような条項があればともかく、そのような条項がない場合には、民法の規定上及び解釈上において賃料減額が認められることは容易ではありませんが、先に記載したように、賃貸人、賃借人双方が置かれた状況を踏まえて、相手方への配慮ある対応が求められるものと思われます。
  3. 賃料の支払猶予
    賃貸借契約書に規定がある場合には、原則として賃貸借契約書の定めに従うことになりますが、通常、賃貸借契約に規定はありませんので、この場合には、賃借人が支払猶予を求める権利は当然には認められず、賃料の支払猶予が認められるには、賃貸人と賃借人との間でその旨の合意が成立することが必要となります。
    しかしながら、新型コロナウイルス感染症の影響による売上減少は、一過性のものである可能性も相応にありますから、当該売上減少の影響が去った後に賃借人が営業を再開して、賃借人から賃料の支払を受けることができ、最終的に損失が生じないこととなるのであれば、賃貸人としては、賃料の一時的な支払猶予を許容してでも、現状の賃借人との賃貸借契約を継続することが中長期的に見て利益になる場合もあると考えられます。
    また、国土交通省は、令和2年3月31日付で、不動産関連団体を通じて、賃貸用ビルの所有者など飲食店をはじめとするテナントに不動産を賃貸する事業を営む事業者に対し、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、飲食店等のテナントの賃料の支払いについて、賃料の支払いの猶予に応じるなど、柔軟な措置の実施を検討するよう要請しており、該当する賃貸人には、この要請も考慮した対応が求められていることも考慮する必要があります(https://www.mlit.go.jp/common/001340555.pdf)。

    賃借人としては、新型コロナウイルス感染症の影響により当然に賃料の支払猶予が認められるものではないとしても、賃貸人に対して協議を申し入れ、新型コロナウイルス感染症の影響が収束した後に賃料の全部又は一部の支払期日を延期することについて協議することは有益と思われます。
    なお、その際には、賃料の支払いを特定の期日に一括とするのではなく、賃貸借契約の残存期間の月数等に応じて分割払いとする旨を合意し、新型コロナウイルス感染症の影響が収束した後の資金繰りが過度に厳しいものとならないように考慮した条件を合意することなどが、賃借人としては重要となると考えられます。
Q2 【一時閉鎖中の営業補償等】
営業中の商業施設内で感染者が発生したことにより消毒・清掃のために一時閉鎖した場合に、賃貸人はテナントに対して営業補償等は必要でしょうか。
A
消毒・清掃のために賃貸人が商業ビル建物の全体または一部を閉鎖した場合、賃貸人は、その間に営業することができないテナントに対し、営業補償等をする責任を負うかどうかも問題となり得ます。
賃貸借契約や館内規則等にこのような場合の取扱いについて、規定があれば、当該契約条項に従って判断されることとなります。
他方、賃貸借契約等にそのような規定がない場合には、民法等の法律に従って判断していくことになります。
必要な範囲で消毒・清掃のために建物を閉鎖することがやむを得ない(不可抗力、ないし、賃貸人に帰責性がない)と判断される場合には、賃貸人は営業補償等をする責任は負わないと考えられます。利用客や他のテナントの従業員への感染を防ぐために、必要な範囲で施設の全体または一部を一時的に閉鎖し、消毒・清掃を実施することは、賃貸物件の衛生環境を保持する義務を履行するものとして、賃貸人が責任を負わないと判断される場合が多いと思われます。
これに対し、賃貸人の帰責性により商業施設内で感染者を出した場合には、賃貸人が責任を負う可能性があります。裁判例においても、賃貸人は、賃貸目的に従った使用ができるよう建物の衛生環境等を維持管理する義務を負っていると解されていますが(東京地裁平成24年6月26日判例時報2171号62頁等)、一部のテナントにおいて感染症患者が発生した場合に賃貸人の責任が認められる場合は少ないように思われます。
Q3 【ビル全体の閉鎖中の賃料】
賃貸人が商業ビルあるいはオフィスビルの建物全体を閉鎖した場合に、賃貸人は、テナントに対して、閉鎖した期間の賃料を請求することができるでしょうか。またテナントは賃料を支払わなければならないでしょうか。
A
賃貸借契約にこのような場合の取扱いについて規定があれば、当該契約条項に従って判断されることになります。
他方、賃貸借契約にそのような規定がない場合には、民法等の法律に従って判断していくこととなります。建物が閉鎖されることにより、テナントはその間は使用収益ができなくなるため、賃貸人が賃借人に賃貸物件を使用収益させる義務を履行していないこと(契約不履行)が問題になります。
特措法による休業要請によって建物を閉鎖することがやむを得ない(不可抗力、ないし、賃貸人に帰責性がない)と判断される場合には、改正前民法536条1項等が適用ないし類推適用されることなどにより、テナントは賃料の支払い義務を負わない(反対給付を支払う義務を負わない)と判断されることがあるものと思われます。

なお、改正後民法においては、「債務者は、反対給付を受ける権利を有しない」という規定が「債権者は、反対給付の履行を拒むことができる」という規定に改められており、改正前民法とは異なり、当然に賃料の支払い義務が消滅するわけではないことに注意が必要です)。
この点、Q1で述べたように建物全体の閉鎖が不可抗力となるかどうかは一義的に明らかになるものではなく、賃貸人と賃借人との間での協議に賃借人の賃料支払義務の存否(あるいは賃料支払義務の履行の拒絶)を決していくことになるかと思います。
Q4 【ビル全体の閉鎖中の営業補償等】
賃貸人が建物全体を閉鎖した場合、賃貸人は、その間に営業することができないテナントに対し、営業補償等をする責任を負うでしょうか。
A
賃貸人が建物全体を閉鎖した場合、賃貸人は、その間に営業することができないテナントに対し、営業補償等をする責任を負うかどうかも問題となります。
賃貸借契約にこのような場合の取扱いについて、規定があれば、当該契約条項に従って判断されることとなります。
他方、賃貸借契約にそのような規定がない場合には、民法等の法律に従って判断していくことになります。
ここでも、Q5と同様に建物が閉鎖されることにより、テナントはその間は使用収益ができなくなるため、賃貸人が賃貸物件を使用収益させる義務を履行していないこと(契約不履行)が問題になり、それが不可抗力といえるのかどうかにより結論が変わります。
特措法による休業要請によって建物を閉鎖することがやむを得ない(不可抗力、ないし、賃貸人に帰責性がない)と判断される場合には、賃貸人は営業補償等をする責任は負わないと考えられます(大審院大正10年11月22日判決・民録27輯1978頁)。
なお、オフィステナントの場合は、顧客が実際にその店舗に来店することが極めて重要な要素となる商業テナント(飲食店、アパレル、物品販売等)とは異なり、テレワークが推奨されるなど、必ずしもオフィスでの業務が必要不可欠とまでは言えないという点が異なります。
また、オフィスビルは休業要請の対象としても明示的にあげられておらず、その対象となる可能性は高くないように思われます。なお、特措法に基づく外出自粛要請(特措法45条1項)は、生活の維持に必要な場合として職場への出勤も対象外と解釈されています(新型インフルエンザ等及び鳥インフルエンザ等に関する関係省庁対策会議『新型インフルエンザ等対策ガイドライン』74頁等)。
そのため、オフィスビルは商業ビルと比較して、オフィスビル全体を閉鎖することがやむを得ない(不可抗力、ないし、賃貸人に帰責性がない)と判断される場面は少ないと考えられ、それにもかかわらず、賃貸人がオフィスビルを閉鎖したという場合には賃貸人の貸す義務の不履行という状況になり、債務不履行責任として損害賠償責任(営業補償等)の必要性が出てくるものと思われます。
Q5 【不動産管理会社の責任】
建物内で感染者が発生した場合の不動産管理会社は何か責任を負うのでしょうか。
A
  1. 建物所有者・賃貸人に対する責任
    不動産管理会社は、建物所有者・賃貸人から不動産の管理について委託を受けており、委託業務の一内容として建物の衛生環境を管理する業務が含まれている場合も少なくありません。不動産管理者が建物の衛生環境を管理する業務の一環として新型コロナウイルスの感染防止策を講じるために、具体的にどのような義務を負うのかについては明確ではありませんが、一部のテナントにおいて感染症患者が発生した場合に不動産管理会社の責任が認められる場合は少ないように思われます。
  2. テナントに対する責任
    営業中の商業ビル建物で新型コロナウイルス感染者が発生した場合、利用客や他のテナントの従業員への感染を防ぐために、建物全体または一部を一時的に閉鎖し、消毒・清掃を実施する場合があります。
    このような場合に、不動産管理会社も、その間に営業することができないテナントに対し、営業補償等をする責任を負うかどうかも問題となり得ます。
    不動産管理会社は、賃貸人とは異なりテナントとの間では契約関係がないため、テナントに対し賃貸建物の衛生環境を保持することについて契約上の義務は負っていないといえます(東京地裁平成26年5月20日判決・Westlaw2014WLJPCA05208011等)。もっとも、不動産管理会社が管理委託契約上の義務に反して、契約関係にない賃借人に対して損害を与えた場合に不法行為が成立するとした裁判例があります(東京地裁平成25年2月28日判決・判例秘書L06830237)。
    不動産管理会社がテナントに対して責任を負う可能性があるとしても、必要な範囲で消毒・清掃のために建物を閉鎖することがやむを得ない(不可抗力、ないし、賃貸人に帰責性がない)と判断される場合には、責任は負わないと考えられます。
    これに対し、不動産管理会社の帰責性により商業施設内で感染者を出したという場合には、賃貸人が責任を負う可能性はあります。もっとも、一部のテナントにおいて感染症患者が発生した場合に不動産管理会社の責任が認められる場合は少ないように思われます。
Q6 【賃料滞納による債務不履行解除】
飲食店舗を賃借して経営していますが、新型コロナウイルス感染の拡大及びそれに伴う緊急事態宣言により休業を余儀なくされました。賃貸人とは賃料減免、猶予含めて交渉をしていますが、これに応じてくれません。現金収入がないため賃料の滞納をしてしまっており、すでに2か月分滞納しており、もうすぐ3か月滞納となりそうです。緊急事態宣言が解除され細々とでも営業ができるようになれば何とか店を続けることができると思うのですが、賃料滞納を理由に賃貸人から賃貸借契約が解除されてしまうか不安です。
A
賃貸借契約において、賃料支払義務は賃借人が負う重要な義務であり、その不履行は契約上において契約解除事由として明記されていることがほとんどであり、また、明記されていないとしても、賃料の不払いは賃借人の負う賃料支払義務の不履行として契約解除事由となります。ただし、賃貸借契約においては、当事者間での信頼関係が破壊されなければ契約解除ができないというのが裁判例であり、軽微な義務違反では契約解除できません。そのため、1,2か月分の滞納では契約解除が認められない可能性が高いといえます。
もっとも過去の裁判例から3か月の滞納となると、契約解除が認められることが多くなります。
したがって、店舗を継続するという場合には、粘り強く賃料の減免又は猶予を求め、それが認められない場合に備えて国の制度を利用するなどして資金調達をして、賃料の滞納額を減らすように対応いただくのがよいかと思います。
Q7 【中途解約】
新型コロナウイルスの感染拡大により、店舗営業を継続することを断念し、不動産オーナー(あるいは管理会社)に契約の解約を申し入れたが、賃借人からの解約は6か月前までに解約告知を行うか、即時解約の場合には6か月分の賃料支払ってもらう必要があると言われました。このような請求に応じなければならないのでしょうか。
A
賃貸借契約の終了にあたり、契約に規定がある場合には原則としてその規定に従うことになります。ご質問の場合も賃借人からの6か月前告知による解約あるいは即時解約の場合の6か月分の賃料相当額の支払いの規定となっているため、原則としてそれに従うべきとなります。もっとも、現在の状況の場合、新規出店を考えている方は少ないかもしれませんが、上記のような6か月前告知による解約などと契約で定めているのは、賃貸物件のオーナーとしてはテナントがいない状態をできるだけ回避したいという点にあるところ、賃借人の方が居抜きで承継してくれる方を探してくれば、交渉次第で、即時解約の上、原状回復義務も免除となるような合意をすることも可能となってきます。
また、万が一そのような方が見つからない場合には、敷金、保証金は一般的に相殺できないという条項が入っていることが多いですが、相殺を可能とする合意の交渉を提案することも考えられます。
なお、下級審の裁判例(東京地判平成8年8月22日判例タイムズ933号155頁)では、4年という期間を定めて建物賃貸借契約をした賃借人が、入居後10か月で中途解約を行った結果、賃貸人が、賃借人に対して、期間満了までの3年2か月分の違約金の支払等を賃借人に対して請求したという事案で、「違約金の金額が高額になると、賃借人からの解約が事実上不可能になり、経済的に弱い立場にあることが多い賃借人に著しい不利益を与えるとともに、賃貸人が早期に次の賃借人を確保した場合には事実上賃料の二重取りに近い結果になるから、諸般の事情を考慮した上で、公序良俗に反して無効と評価される部分もあるといえる。」として、違約金の金額は、1年分の賃料額の限度で有効であるという旨の判断をしたものがあります。この裁判例はあくまで事例判断ですが、賃貸借契約に定められた解約の事前告知期間のほか、賃料の金額、その他賃貸借契約の内容、解約の経緯、対象物件の新たな借り手探索の難易等を総合的に考慮し、解約の事前告知の条項が一部無効となるケースもあると考えられます。したがって、賃料の負担が厳しいために即時解約をするという場合に違約金条項がある場合にまずはその有効性について検討してみる必要があります。
また、違約金が合意により減額されたとしても前述したように、資金繰りが厳しい場合には敷金との相殺の交渉を試みることが考えられます。
Q8 【契約直後の中途解約】
店舗を4月下旬からオープンをさせるつもりで、賃貸人からは建物の引き渡しを受けていますが、コロナ禍により営業の継続の見込みがたたないため、オープン前ですが店舗開業を断念したいと思っています。賃貸借契約書にはサインをしていますが、今後どのようにしたらよいでしょうか。
A
オープン前といえども、賃貸借契約が締結され、引き渡しも受けているため、契約を期間前に終了させることについては賃貸借契約書に規定があればそれに従うことになりますが、それがないという場合には、民法等の法律の定めに従い、賃貸借契約を終了し、明け渡しをしていくことになります。一般的にはQ7のように賃貸借契約を中途解約するには数か月前の告知か即時解約の場合には数か月分の賃料を支払う必要があるとされているものが多いと思いますが、オープンを断念するという状況でこれらの支払いは相当負担になるものと思われます。そのため、Q7に記載したような居抜きで引き取ってくれる方を探す、すでに敷金・保証金を差し入れている場合にはそれとの相殺合意を試みるなどの方法を取ることが考えられます。また、違約金条項の有効性についてもQ7で述べたように検討することが必要です。
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