経営お役立ちコラム

2021.10.29 【労務】

同一労働・同一賃金に関する
Q&A集
令和2年10月にニュースになっていた賞与や退職金に関する最高裁判決と「同一労働同一賃金」はどのような関係にあるのですか。

弁護士 井上 陽介

Q
令和2年10月にニュースになっていた賞与や退職金に関する最高裁判決と「同一労働同一賃金」はどのような関係にあるのですか。
A
令和2年10月に,正規・非正規労働条件格差の不合理性が争われていた5つの事件について最高裁が判決を言い渡しました(以下,これらの判例をまとめて「本件判例」といいます)。本件判例はいずれも労契法20条違反の成否が争われた判例ですが,労契法20条は同法の改正により既に削除され,有期雇用労働者と通常の労働者との間の待遇の相違についての規制は,パート有期法8条に移行しています。
そのため,本件判例と現在の「同一労働同一賃金」では,適用となる法律が異なることになりますが,本件判例の判断基準は,「同一労働同一賃金」における解釈指針となると思われます。

(解説)

  1. 「同一労働同一賃金」について
    「同一労働同一賃金」とは,同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものであり,2018年6月に成立した働き方改革関連法の一部で、労働契約法、いわゆる旧パート法、いわゆる派遣法が改正されたものを指します。
    「同一労働同一賃金」について詳しくは,Q1を参照してください。
  2. 本件判例について
    上記1において記載の通り,「同一労働同一賃金」とは,正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の解消を目指す制度を指しますが,本件判例の事案は,同一の事業主に雇用される無期契約労働者と有期契約労働者との間の待遇の相違が不合理であるか否か,が問題となった事案です。
    同一の事業主に雇用される無期契約労働者と有期契約労働者との間の不合理と認められる待遇の相違(均衡待遇)ついては,従前は,労契法20条により規制されていました。本件判例も労契法20条違反の成否が問題となった事案です。
  3. パート有期法の成立について
    上記1において記載の通り,「同一労働同一賃金」とは,2018年6月に成立した働き方改革関連法の一部で、労契法、パート法,及び派遣法が改正されたものを指します。
    すなわち,本件判例において問題となった労契法20条は,同法の改正により削除されました。そして,労契法20条がパート法8条に統合される形でパート有期法8条が成立し,大企業については2020年4月1日より,中小企業については2021年4月1日より施行されました。
    そのため,同一の事業主に雇用される無期契約労働者と有期契約労働者との間の待遇の相違が不合理であるか否かについて,今後は,パート有期法8条違反の成否が問題となることになります。
    労契法20条とパート有期法8条では条文構造は多少異なりますが,上記のとおり,労契法20条がパート法8条に統合される形でパート有期法8条が成立しましたので,労契法20条の解釈が争点となった本件判例の判断基準は,「同一労働同一賃金」(パート有期法8条)の解釈指針となるものと考えられます。
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