経営お役立ちコラム

2020.04.08 【新型コロナウィルス関連】

新型コロナウイルス対策に関するQ&A
(労働関係その2:労働時間)

【2022.8.8現在】

労働関係等については、個別の事情によって結論が変わってきますし、事案によっては微妙な判断が求められたり、最終的には経営判断をせざるを得ない部分もあるので、お悩みの場合は弁護士にご相談することをお勧めします。
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2 労働時間(変形労働時間制、36協定の特別条項など)

<変形労働時間制の導入や変更>
Q1 新型コロナウイルス感染拡大による、事業の縮小などの影響を受けて、労働時間の減少や、休む労働者が増えたときに残りの労働者が多く働かないとならない事態が考えられます。その人達について、労働基準法の労働時間の上限を超えないようにするため、変形労働時間制を導入したり、変更したりするにはどうしたらよいでしょうか。
A: 今般の新型コロナウイルス感染症に関連して、人手不足のために労働時間が長くなる場合や、事業活動を縮小したために労働時間が短くなる場合については、1年単位の変形労働時間制を導入することが考えられます。
労働基準法第32条の4においては、労使協定において、1年以内の変形期間を平均して1週間あたりの労働時間が40時間を超えない範囲内で、1週に1回の休日が確保される等の条件を満たした上で、労働日及び労働時間を具体的に特定した場合、特定の週及び日に1日8時間・1週40時間の法定労働時間を超えて労働させることができるとされています。 また、今回の新型コロナウイルス感染症対策により、1年単位の変形労働時間制を既に採用している事業場において、当初の予定どおりに1年単位の変形労働時間制を実施することが困難となる場合も想定されます。
1年単位の変形労働時間制は、対象期間中の業務の繁閑に計画的に対応するために対象期間を単位として適用されるものであるので、労使の合意によって対象期間の途中でその適用を中止することは原則できないと解されています。
しかしながら、今回の新型コロナウイルス感染症への対策による影響にかんがみれば、当初の予定どおりに1年単位の変形労働時間制を実施することが企業の経営上著しく不適当と認められる場合に次の①及び②に該当する事業所は、特例的に労使でよく話し合った上で、1年単位の変形労働時間制の労使協定について、労使で変更や合意解約をしたり、あるいは協定中の破棄条項に従って解約し、改めて協定し直すことも可能と考えられます。
  • ①新型コロナウイルス感染症の対策を行う期間を対象期間に含む変形労働時間制を実施している事業場
  • ②新型コロナウイルス感染症の対策が求められることに伴い当初の計画どおり変形労働時間制を実施することが著しく困難になったため、 変更等の対応が必要な事業場
ただし、この場合であっても、変更の場合は、変更前の期間を含めて対象期間全体で所定労働時間を1週間当たり40時間以下にする必要があります。また、解約する場合は、解約までの期間を平均し、1週40時間を超えて労働させた時間について割増賃金を支払うなど協定の解約が労働者にとって不利になることのないよう留意が必要です。

1年単位の変形労働時間制の詳細については、こちらをご覧下さい。
https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/seido/kijunkyoku/week/970415-3.htm
https://jsite.mhlw.go.jp/yamagata-roudoukyoku/koronahenkeiroudoujkannsei-20200514.html
https://jsite.mhlw.go.jp/yamagata-roudoukyoku/content/contents/000647643.pdf
<36協定の特別条項>
Q2 36協定においては、臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合(特別条項)には、限度時間(月 45 時間・年 360 時間)を超えることができるとされていますが、新型コロナウイルス感染症関連で、休む労働者が増えたときに残りの労働者が多く働くこととなった場合には、特別条項の対象となるのでしょうか。
A: 今般のコロナウイルス感染症の状況については36協定の締結当時には想定し得ないものであると考えられるため、例えば、36協定の「臨時的に限度時間を超えて労働させることができる場合」に、繁忙の理由がコロナウイルス感染症とするものであることが明記されていなくとも、一般的には、特別条項の理由として認められるものです。
なお、現在、特別条項を締結していない事業場においても、法定の手続を踏まえて労使の合意を行うことにより、特別条項付きの36協定を締結することが可能です。

※36協定の締結の方法等については、こちらをご覧下さい。
https://www.mhlw.go.jp/content/000463185.pdf
https://www.startup-roudou.mhlw.go.jp/support.html
<労働基準法第33条の適用>
Q3 新型コロナウイルスの感染の防止や感染者の看護等のために労働者が働く場合、労働基準法第33条第1項の「災害その他避けることができない事由によって、臨時の必要がある場合」に該当するでしょうか。
A: この点、今回の新型コロナウイルスが指定感染症に定められており、一般に急病への対応は、人命・公益の保護の観点から急務と考えられるので、労働基準法第33条第1項の要件に該当し得るものと考えられます。
また、例えば、新型コロナウイルスの感染・蔓延を防ぐために必要なマスクや消毒液等を緊急に増産する業務についても、原則として同項の要件に該当するものと考えられます。 ただし、労働基準法第33条第1項に基づく時間外・休日労働はあくまで必要な限度の範囲内に限り認められるものですので、 過重労働による健康障害を防止するため、実際の時間外労働時間を 月45時間以内にすることなどが重要です。
また、やむを得ず月に80時間を超える時間外・休日労働を行わせたことにより 疲労の蓄積の認められる労働者に対しては、医師による面接指導などを実施し、適切な事後措置を講じる必要があります。

(参考)時間外・休日労働とは?
労働基準法第32条においては、1日8時間、1週40時間の法定労働時間が定められており、これを超えて労働させる場合や、労働基準法第35条により毎週少なくとも1日又は4週間を通じ4日以上与えることとされている休日に労働させる場合は、労使協定(いわゆる36協定)を締結し、労働基準監督署に届け出ることが必要です。
しかし、災害その他避けることのできない事由により臨時に時間外・休日労働をさせる必要がある場合においても、例外なく、36協定の締結・届出を条件とすることは実際的ではないことから、そのような場合には、36協定によるほか、労働基準法第33条第1項により、使用者は、労働基準監督署長の許可(事態が急迫している場合は事後の届出)により、必要な限度の範囲内に限り時間外・休日労働をさせることができるとされています。労働基準法第33条第1項は、災害、緊急、不可抗力その他客観的に避けることのできない場合の規定ですので、厳格に運用すべきものです。
なお、労働基準法第33条第1項による場合であっても、時間外労働・休日労働や深夜労働についての割増賃金の支払は必要です。
<時差出勤・時短勤務導入の手続>
Q4 混雑した電車での通勤回避のため、時差出勤制度や時短勤務を導入したいのですが、どのような手続が必要でしょうか。
A:
<時差出勤の場合>
労働基準法89条1号にあるとおり、始業時刻及び終業時刻は就業規則の必要的記載事項となっています(労基法89条1号)のでこれを変更する時差出勤導入の場合には原則的に就業規則変更手続が必要となります。もっとも、多くの就業規則では、業務都合による始業・終業時刻の変動が規定されているため、そのような場合には当該規定に基づき、労働者に周知すれば足りることになります。もしそのような規定がない場合には、労働者との個別の合意を取得することが必要となります。

<時短勤務>
【労働契約によって、予め勤務時間が決まっている場合】
時短勤務を行うに際して、時短勤務に関し労働者の個別の合意を取得した上で、時短勤務を行う場合、短縮された時間について、ノーワークノーペイの原則から、賃金を支払う必要がなくなると考えられます。
しかし、通常どおりの勤務を続けたいと希望する社員に対して、業務命令として1日あたり1時間少ない労働時間での就業を命ずる場合には、労務提供ができなかった時間の賃金又は少なくとも休業手当を支払う必要があります。
なお、短縮された時間分賃金を減額しない場合には、就業規則上の始業時間を変更するのではなく、時短となった分の勤務時間について一時的に就労を免除するという立て付けをとることで労働者にとって有利な労働条件の変更となりますので、会社からの一方的通知によることも許容されると解されます。

【アルバイトなど使用者のシフト決定に基づき労務提供することを内容とした労働契約の場合】
契約で勤務時間が定まっていない場合には、使用者側が決定したシフトに基づき、労働者が労務を提供することが労働契約の内容なっていますので、使用者側がシフトを入れない以上、労働者の労務提供義務及び使用者の賃金支払義務は発生しないことになります。
したがって、このような場合、労働者がシフトを減らされてしまっても、就労請求や賃金請求は認められないのが原則です。合理的な理由なくシフトを大幅に削減したと認められる場合には、削減前の直近の賃金額を参考にして賃金請求を認めるという裁判例もありますので、シフト削減については労使間で協議するのが望ましいです。
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