経営お役立ちコラム

2019.10.21 【会社経営】

親族内における株式譲渡による事業承継 基本のキ
(先代経営者は何をしておくべきか)

弁護士 塩津 博伸

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執筆日:2016/10/3

経営者が自己の親族に経営権を承継させようとする場合(以下では「親族内承継」といいます。)における最も重要な法的課題は、経営権の承継です。
中小企業をはじめとする同族・非上場会社においては、経営者が自社株を保有し、所有と経営が一致していることが通常です。このような場合、先代経営者が経営権を親族に承継させるためには、その保有する自社株を後継者となるべき親族に集中的に承継させる必要があります。
しかし、何らかの事前対策を講じておかなければ、自社株を後継者となるべき親族に集中的に承継させることに困難が生じることが少なくありません。事前対策のスキームは様々あり、それぞれにメリットとデメリットがあります。
以下では、まず経営権を確保するために必要な議決権割合について簡単にご説明した上で、事前対策をしないとどうなってしまうのか(事前対策の必要性)、そして、事前対策としてどのスキームを選択すべきかについて簡単にご説明していきます。

後継者に株式をどの程度の割合で集中させるべきか(経営権の確保に必要な議決権割合)

親族内承継を行うためには、先代経営者が保有する自社株を後継者の方に集中的に承継させることが必要です。
後継者の経営権を確保するためには、株主総会の特別決議に必要な3分の2以上の議決権割合に相当する株式を承継させる必要があります。3分の2以上の議決権があれば、定款変更、事業譲渡等、会社の重要事項を後継者が決定することが可能となります。
3分の2以上の議決権の承継が難しい場合でも、少なくとも普通決議に必要な過半数以上の議決権割合に相当する株式を承継させるようにしましょう。過半数以上の議決権があれば、役員の選任・解任や計算書類の承認等を通じて、最低限度の経営権を確保することが可能となります。

事前対策をしないとどうなるか(事前対策の必要性)

自社株の承継は、通常、売買、生前贈与、死因贈与、遺言、遺産分割によって行われます。売買、生前贈与による場合は、相続開始前(被相続人の生前)に自社株の承継がなされますが、死因贈与、遺言、遺産分割による場合には、相続開始以降(被相続人の死後)に承継がなされることになります。
自社株の承継について何らかの事前対策をしておかないと、自社株が共同相続人間に共有とされることになってしまいます。そして、共有された株式の議決権の行使は、共有者の持分の過半数で決定することになります。したがって、法定相続分の割合如何によっては、後継者となるべき相続人が経営権を失ってしまうおそれがあります。
この共有状態を解消するためには、遺産分割を行わなければなりませんが、遺産分割には時間がかかりますし、後継者となるべき相続人が株式を承継できる保証はありません。そのため、事前対策を講じておくことが非常に重要となります。

事前対策として何をすべきか(生前贈与と売買との比較)

では事前対策として何をすればよいのでしょうか。

円滑に安定した親族内承継を実現するという観点からは、相続開始前(被相続人の生前)に自社株を後継者に承継することが望ましく、その手段としては売買と生前贈与があります(※遺言では相続開始以降に承継されることになるため、ここでは割愛します。)。
売買による承継とは、先代経営者が売主となって後継者に対し有償で自社株を譲渡することです。生前贈与による承継とは、先代経営者が後継者に対し生前に株式を無償で譲渡することです。生前贈与の場合は、後継者に自社株の購入資金がなくても実現できるというメリットがありますが、贈与された自社株は特別受益となり、遺留分減殺請求の対象となり得ますので、安定性に欠けるというデメリットがあります。
売買の場合には、譲渡価格が時価に比べて廉価でなければ遺留分減殺請求の対象になりませんので、購入資金を準備できるのであれば売買を選択すべきです。但し、先代経営者に譲渡所得税の負担が生じる点には留意しましょう。