経営お役立ちコラム

2020.06.01 【契約】

中小事業者等への「しわ寄せ」問題等に関する
Q&A集
口頭発注等、契約書の取り交わしにクライアントが
応じてくれない場合の対応方法

弁護士 高橋 幸宏

【2021.5.11現在】

Q
【個人事業主向け】契約書の取り交わしをしたいが,クライアントが応じてくれません。どのように対応すればよいでしょうか。そもそも、口頭による発注(口頭発注)でも契約は成立するのでしょうか。
A
法律上は、契約書がない場合,すなわち,口頭による発注(口頭発注)での合意の場合であっても契約は成立しますが,訴訟などの法的手続で契約の成立や内容を立証できない可能性があります。
そのため,契約書の取り交わしにクライアントが応じてくれない場合には,最低限どのような合意をしたかわかる記録を残しておくことが望ましいです。
具体的には,合意した内容がわかる電子メールのやりとりや,LINEなどの記録を残しておけば,後に紛争になった際に,成立した合意の内容をこれらの記録から認定することも可能です。
  1. 契約の成立
    そもそも,契約書を作成しなければ,契約が成立しないのでしょうか。
    契約とは,当事者間の意思の合致によって成立するものであり,一部の例外を除いて,契約書がない場合,すなわち,口頭による発注(口頭発注)での合意の場合であっても,成立します。つまり,契約書は契約の成立要件ではないのです。
  2. 契約書の重要性
    それでは,契約書を作成する必要がないかというと,そうではありません。通常,契約を締結する際には,商品の引渡時期や報酬金額など,様々な事項を取り決めるものです。その取決めを口頭で行っただけでは,記憶違いや誤解により,後日クライアントから約束もしていないことを要求されたり,逆に約束した報酬を支払ってもらえなかったりするなどの危険があります。
    そこで,契約の内容を書面にすることで明確化し,無用なトラブルを防ぐため,または,万一トラブルが生じたときの解決の拠り所とするため,契約書の作成は極めて重要となります。
  3. 契約書を作成してくれない場合の対処法
    まずは,契約書が契約内容を示す最良の証拠であることから,契約書を取り交わすようクライアントに要請すべきでしょう。とりわけ,契約上の力関係が弱い個人事業主は,トラブルになった場合に一方的に不利益を被ることもあるため,契約書によって自衛する必要性が高いといえます。
    それでも,クライアントとの力関係によっては,契約書を作成したがらないクライアントの要望に応じざるを得ない場合もありますし,契約書を取り交わす前に作業に着手せざるを得ない場合もあるでしょう。
    その場合には,少なくとも業務内容や納期・報酬金額等の契約の重要部分については,電子メールやLINEなどの記録に残る媒体を用いてクライアントに伝え,そのやり取りを記録に残しておくべきです。前述のとおり,契約書とは,クライアントとの契約の内容を明確化し,無用なトラブルを防止するため,または,万一トラブルが生じたときに解決の拠り所とするために,重要な意義を持つものです。したがって,何らかの方法で契約の内容が明らかになっていれば,契約書には及ばないまでも,同様の効果を得ることが期待できるのです。
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