経営お役立ちコラム

2020.10.05 【契約】

中小事業者等への「しわ寄せ」問題等に関する
Q&A集
クライアントが報酬を一方的に減額した場合の対応方法

弁護士 間嶋 修平

Q
A社(資本金3000万円)は、旅行会社であるB社(資本金2億円)から旅行先のホテル、レストラン、ガイド又は交通機関の手配及び予約に関する業務を受託しており、先日、報酬の支払がありました。ところが、支払われた報酬が当初提示されていた金額よりも少なかったため、B社に確認したところ、業績が悪化したことを理由に、「協力金」として報酬額に一定率を乗じた金額を差し引いたとの回答がありました。どのように対応すればよろしいでしょうか。
A
まず、A社としては、報酬の一部が支払われていない以上、未払報酬を回収すべく、相談窓口等を通じて弁護士に相談の上、内容証明郵便等による支払の催告、訴訟提起、仮差押え、反対債権がある場合には相殺,その他担保権実行、連帯保証人への請求等の債権回収手段を検討することが考えられます。
また、B社の行為は、下請法で禁止される報酬の減額に該当するため、A社としては、下請法違反を主張し、任意の交渉を行うほか、B社が交渉に応じない場合には、公正取引委員会、中小企業庁に調査・指導を求めて相談することが考えられます。

(解説)

  1. B社が当初提示されていた報酬額より「協力金」として報酬額に一定率を乗じた金額を差し引いた場合、A社としては、どのように対応すべきでしょうか。
  2. まず、A社としては、報酬の一部が支払われていない以上、未払報酬を回収すべく、相談窓口等を通じて弁護士に相談の上、内容証明郵便等による支払の催告、訴訟提起、仮差押え、反対債権がある場合には相殺,その他担保権実行、連帯保証人への請求等の債権回収手段を検討することが考えられます。
  3. また、報酬の減額は、下請法4条1項3号に違反する可能性があります。
    前提として、下請法の適用の有無は、①取引当事者の資本金又は出資の総額の区別(3億円超、1千万円超3億円以下、5千万円超、1千万円超5千万円以下)、②取引の内容(製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託)の2つの側面から判断されます。
    まず②について、本件取引は、旅行会社であるB社が旅行者に対し業として提供を行う、旅行先のホテル、レストラン、ガイド又は交通機関の手配及び予約に関する業務の全部又は一部をA社に委託することを内容とするため、「役務提供委託」に該当します(下請法2条4項)。
    次に①について、A社の資本金が5千万円以下、B社の資本金が5千万円超であり、それぞれ下請事業者、親事業者の要件を充たしています。
    したがって、本件取引には、下請法の適用があります。「歩引き」や「リベート」等減額の名目、方法、金額の多寡を問わず、発注後いつの時点で減額しても下請法に違反することになりますので、B社が当初提示されていた報酬額より「協力金」として報酬額に一定率を乗じた金額を差し引くことは、A社の責めに帰すべき理由がある場合を除き1、A社の同意があったとしても、下請法4条1項3号に違反することになります。
    よって、A社としては、2以外の方法として、B社による報酬の減額行為が下請法4条1項3号に違反することを指摘した上で、未払報酬の支払を求めるなど任意の交渉を行うほか、B社が交渉に応じない場合には、調査・指導を求めて、公正取引委員会、中小企業庁や各経済産業局その他相談窓口へ相談することを検討することが考えられます。
  4. また、本件とは異なり、下請法の適用がない場合であっても、B社による報酬の減額行為は、優越的地位の濫用(独占禁止法2条9項5号ハ)を理由とする独占禁止法違反が認められる可能性もありますので、参考にしてみてください。
  5. 以上のとおり、報酬の減額への対応方法は種々考えられますが、予防策として契約書や3条書面(下請法3条に基づき、委託内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項が記載された書面)において、報酬金額、支払期日や支払方法、報酬の減額を制限する定めなどを明記しておくと良いでしょう。
東京弁護士会 中小企業法律支援センター
https://www.toben.or.jp/form/chusho1.html

公正取引委員会・下請法に関する相談・申告等窓口
https://www.jftc.go.jp/shitauke/madoguti.html

中小企業庁・下請法申告受付窓口
https://mm-enquete-cnt.meti.go.jp/form/pub/jigyokankyo/shitaukeho_shinkoku
  1. 1 下請事業者の責めに帰すべき理由がある場合のほかに、①下請事業者に販売した商品等の対価や貸付金等の弁済期にある債権を下請代金から差し引く場合や、②親事業者が下請事業者に対し、一定期間に一定数量を超えた発注を達成したことを条件として、下請事業者が親事業者に対して割戻金を支払う場合(ボリュームディスカウント)など、下請代金の額を「減ずること」に該当しない場合があります。
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