経営お役立ちコラム
2021.04.20 【契約】
中小事業者等への「しわ寄せ」問題等に関する
Q&A集
クライアントが委託内容や報酬金額・支払時期等を口頭で伝えてくるだけで書面を交付してくれない場合の対応方法
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Q
印刷業者A社(資本金1000万円)は、出版社であるB社(資本金10億円)から同社が販売する書籍の印刷業務の委託を受けました。
しかしながら、B社は、委託業務の具体的内容や支払条件等の委託の内容が決まっているにも関わらず、A社に対し、委託の内容を口頭で連絡してきたのみで書面を交付せず、A社が繰り返し書面交付を求めても、A社が委託業務に着手した後も、B社は書面を交付しませんでした。
A社としては、口頭での約束のみで、委託業務の具体的内容や支払条件等が曖昧なまま委託業務を遂行しなければならないことに不安を感じています。どのように対応すればよいでしょうか。 -
A
B社の行為は、下請法で定められた発注書面の交付義務違反に該当するため、A社としては、下請法違反を主張し、下請法所定の事項を記載した書面を交付するように求めることができます。B社が任意での書面交付に応じない場合には、公正取引委員会、中小企業庁に調査・指導を求め相談することが考えられます。
(解説)
- B社が委託内容に関する書面を交付しないことは、下請法3条に違反する可能性があります。そのような場合、A社としては、どのように対応すべきでしょうか。
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前提として、下請法の適用の有無は、①取引当事者の資本金又は出資の総額の区別(3億円超、1千万円超3億円以下、5千万円超、1千万円超5千万円以下)、②取引の内容(製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託)の2つの側面から判断されます。
まず②について、本件取引は、印刷業務、すなわち、B社が業として販売を行う書籍の製造をA社に委託することを内容とするため、「製造委託」に該当します(下請法2条1項)。 次に①について、A社の資本金が3億円以下、B社の資本金が3億円超ですので、それぞれ下請事業者、親事業者の要件を充たしています(下請法2条7項1号)。
したがって、本件取引には、下請法の適用があるため、B社が委託内容に関する書面を交付しないことは、発注書面の交付を義務付けた下請法3条に違反する可能性があることになります。
以下、発注書面の交付に関する下請法上の規制について、詳述します。 -
まず、発注書面に記載しなければならない事項の詳細は、「下請代金支払遅延等防止法第3条の書面の記載事項等に関する規則」の第1条1項に定められています。主な記載事項は次のとおりです。
- (ア) 下請事業者の給付の内容(品目、品種、数量、規格、仕様等を明確に記載する必要があります。)又は提供する役務の内容
- (イ) 下請事業者の給付又は提供する役務を受領する期日
- (ウ) 下請事業者の給付を検査する期日
- (エ) 下請代金の額及び支払期日(具体的な金額を明確に記載することが原則となっています。1)
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次に、発注書面の交付時期については、親事業者は、下請事業者に対して製造委託等をした場合は、「直ちに」書面を交付しなければならないと定められています。
ただし、下請法では、上記の発注書面の記載事項のうち「その内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その記載を要しないものとし、この場合には、親事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない」と定められています(下請法第3条1項ただし書き)。上記の発注書面の記載事項のうち、その内容が定められないことについて正当な理由があり記載しない事項(以下「特定事項」といいます。)がある場合には、これらの特定事項以外の事項を記載した書面(以下「当初書面」といいます。)を交付した上で、特定事項の内容が定まった後には、直ちに、当該特定事項を記載した書面(以下「補充書面」といいます。)を交付しなければならないというルールになっています(下請法第3条1項ただし書き)。 - 続いて、発注書面の交付方法について、親事業者は、発注書面の交付に代えて、電子メール等の電磁的方法により、委託内容、下請代金の額等の必要記載事項の提供を行うことが認められています。もっとも、この場合には、親事業者は下請事業者に対して、事前に、電磁的方法の種類及び内容を示し、書面又は電磁的方法による承諾を得なければならないと定められています。2
- なお、上記の発注書面と契約書は別個の書面です。仮に、契約書が調印されていたとしても、その契約書に発注書面の記載事項が網羅されていないのであれば、親事業者は発注書面の交付義務に違反していることになります。他方、契約書に発注書面の記載事項が網羅されている場合は、その契約書を発注書面に代えることができると考えられており、親事業者は発注書面の交付義務に違反していないということになります。
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以上のとおり、B社が委託内容に関する書面を交付しないことは、発注書面の交付を義務付けた下請法3条に違反する可能性があることになります。
この場合、A社としては、B社の下請法違反を主張し、下請法所定の事項を記載した書面を交付するように求めるほか、B社が任意での書面交付に応じない場合には、公正取引委員会、中小企業庁に調査・指導を求め相談することが考えられます。
https://www.toben.or.jp/form/chusho1.html
公正取引委員会・下請法に関する相談・申告等窓口
https://www.jftc.go.jp/shitauke/madoguti.html
中小企業庁・下請法申告受付窓口
https://mm-enquete-cnt.meti.go.jp/form/pub/jigyokankyo/shitaukeho_shinkoku
- 1 例外として、同規則第1条第2項に基づき、「具体的な金額を記載することが困難なやむを得ない事情がある場合」には「具体的な金額を定めることとなる算定方法」を記載することも認められています。この算定方法は、下請代金の額の算定の根拠となる事項が確定すれば、具体的な金額が自動的に確定することとなるものでなければならず、下請代金の具体的な金額を確定した後、速やかに、下請事業者に通知する必要があります。
- 2 加えて、親事業者は、発注書面に代えて電磁的方法による場合には、下請事業者に不利益を与えないようにするため、「下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項」(平成13年3月30日)を踏まえる必要があります。
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