経営お役立ちコラム

2021.04.20 【契約】

中小事業者等への「しわ寄せ」問題等に関する
Q&A集
クライアントの下請法違反を公正取引委員会又は中小企業庁に知らせたところ、クライアントから報復措置を受けた場合の対応方法

弁護士 間嶋 修平

Q
A社(資本金2000万円)は、貨物利用運送事業者(自らはトラックなどの運送手段を持たず、荷主からの依頼を受けて、他の運送事業者に貨物の運送を委託して運送する事業者)であるB社(資本金300億円)が請け負った貨物運送の一部を受託し、指定の納期に運送を完了しました。しかし、B社は、取引先の都合を理由に、契約書上の支払期日を経過した後も報酬を支払ってくれません。
A社は、何度催促してもB社が支払おうとしないため、やむを得ず中小企業庁に相談したところ、B社に中小企業庁の調査が入ったようですが、今度は、B社からA社に対して、一方的に契約を解除すると通告がありました。A社としては、どのように対応すればよいでしょうか。
A
まず、A社としては、B社による契約の解除が無効であるとして、契約継続を求めていくことが考えられます。また、B社の行為は、下請法で禁止される報復措置に該当するため、A社としては、下請法違反を主張し任意の交渉を行うほか、B社が交渉に応じない場合には、公正取引委員会、中小企業庁や各経済産業局その他相談窓口に調査・指導を求め相談することが考えられます。

(解説)

  1. まず、B社が契約書上の支払期日経過後も報酬を支払わないことは、下請法で禁止される支払遅延に該当し、下請法4条1項2号に違反する可能性があります。支払遅延に対する対応につきましては、以下の記事をご参照ください。
    http://cs-lawyer.tokyo/column/2020/08/02.html
  2. それでは、B社が、A社が中小企業庁へ相談したことを契機として一方的に契約を解除すると通告してきた場合、A社としては、どのように対応すべきでしょうか。
  3. まず、A社としては、B社による解除の根拠、契約上の解除条項の内容(解除事由や手続など)等を確認し、法律上又は契約上解除ができる場合に該当するのかを検討することになります。B社の解除に理由がない場合、A社は、B社による解除が無効であるとして、契約継続を求めていくことが考えられます。
  4. また、B社が、A社が中小企業庁へ相談したことを契機として一方的に契約を解除すると通告してきたことは、下請法4条1項7号に違反する可能性があります。
    前提として、下請法の適用の有無は、①取引当事者の資本金又は出資の総額の区別(3億円超、1千万円超3億円以下、5千万円超、1千万円超5千万円以下)、②取引の内容(製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託)の2つの側面から判断されます。
    まず②について、本件取引は、貨物利用運送事業者であるB社が業として行う貨物運送の一部をA社に委託することを内容とするため、「役務提供委託」に該当します(下請法2条4項)。
    次に①について、B社の資本金が3億円超、A社の資本金が3億円以下ですので、それぞれ親事業者、下請事業者の要件を充たしています(下請法2条7項1号、同条8項1号)。 したがって、本件取引には下請法の適用があります。下請法4条1項7号は、親事業者が、下請事業者が親事業者の下請法違反行為を公正取引委員会又は中小企業庁に知らせたことを理由として、その下請事業者に対して取引数量を減じたり、取引を停止したり、その他不利益な取扱いをすることを禁止していますので、B社が、A社が中小企業庁へ相談したことを契機として一方的に契約を解除すると通告してきたことは、同条に違反することになります。
    よって、A社としては、3以外の方法として、B社の行為が下請法4条1項7号に違反することを指摘した上で、契約継続を求めるなど任意の交渉を行うほか、B社が交渉に応じない場合には、再度調査・指導を求めて、公正取引委員会、中小企業庁や各経済産業局その他相談窓口へ相談することを検討することが考えられます。
  5. さらに、本件と異なり、下請法の適用がない場合であっても、B社の行為は、優越的地位の濫用(独占禁止法2条9項5号ハ)を理由とする独占禁止法違反が認められる可能性がありますので、参考にしてみてください。
  6. 以上のとおり、報復措置への対応方法は種々考えられますが、予防策としては、契約書や3条書面(下請法3条に基づき、委託内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項が記載された書面)において、取引条件の変更及び解除の条件や手続を明記しておくと良いでしょう。
東京弁護士会 中小企業法律支援センター
https://www.toben.or.jp/form/chusho1.html

公正取引委員会・下請法に関する相談・申告等窓口
https://www.jftc.go.jp/shitauke/madoguti.html

中小企業庁・下請法申告受付窓口
https://mm-enquete-cnt.meti.go.jp/form/pub/jigyokankyo/shitaukeho_shinkoku
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