経営お役立ちコラム
2021.05.11 【契約】
中小事業者等への「しわ寄せ」問題等に関する
Q&A集
クライアントから契約交渉を一方的に打ち切られた場合において、
先行して実施済みの作業に関する費用の請求の可否
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Q
契約締結を前提として作業を行ったところ、後日、クライアントから契約を締結しないと言われてしまいました。契約が成立していない以上、クライアントに対して、作業に要した費用を請求できないのでしょうか。 -
A
契約交渉が相当程度成熟しているにもかかわらず、クライアントが信義に反する行為により一方的に契約交渉を打ち切った場合などには、作業に要した費用を請求できる場合があります。-
はじめに
契約を締結するか否かは当事者の自由であり、当事者はいつでも契約交渉を打ち切ることができるのが原則です。
しかしながら、契約交渉が進むにつれ、一方当事者の言動から他方当事者が契約の成立を信頼し、そのために相当の費用をかけて準備に取り掛かる場合があります。そのような場合にまで、一方的な交渉破棄が認められ、準備に取り掛かった当事者が一切保護されないのでは、不合理な結論を招きます。
そこで、契約交渉が相当程度成熟しているにも関わらず、一方当事者が信義に反する行為により他方当事者に損害を与えた場合には、その損害を賠償しなければならないという理論があります。これを「契約締結上の過失」といいます。 -
契約締結上の過失
- (1)契約締結上の過失が認められる場合
契約締結上の過失は、民法に明文の規定がありません。そのため、これが認められるか否かは一義的に判断できるものではなく、契約交渉過程の成熟性や、契約成立を期待させる行動の有無、交渉破棄の責任の所在等、個別具体的な事情を総合考慮することによって判断されます。
例えば、発注内示書や仮注文書が交付されていたこと、一方当事者が契約締結を前提とした行動をとっていたこと、契約前の作業が膨大でありかつそのことを相手方が認識していたこと等は、契約締結上の過失を肯定する方向に働きます。反対に、他社に委託する可能性が示唆されていたこと、作業内容が具体化していなかったこと等は、契約締結上の過失を否定する方向に働きます。
ただし、あくまで当事者がいつでも契約交渉を打ち切ることができるのが原則である以上、契約締結上の過失は簡単には認められないことに注意が必要です。 - (2)損害賠償の範囲
契約締結上の過失が認められたとしても、契約が成立していない以上、契約の成立を信頼して支出した費用の賠償が認められるにすぎません。
例えば、契約交渉に要した交通費・通信費・人件費や、代金支払のために融資を受けた際の利息は賠償の範囲に含まれますが、契約が成立していれば獲得することができたはずの報酬や転売利益は、賠償の範囲には含まれません。
したがって、契約が成立した場合と比較して、賠償を受ける金額が低額になることに注意が必要です。
- (1)契約締結上の過失が認められる場合
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実務上の対応
当事者はいつでも契約交渉を打ち切ることができるのが原則であるため、クライアントが契約を締結しなかったからといって、当然に作業に要した費用を請求できるわけではありません。また、契約締結上の過失が認められた場合であっても、賠償の範囲は、契約が成立した場合に比べて低額になります。そのため、契約締結前に大掛かりな作業に着手することには、慎重でなければなりません。
仮に、納期等の都合により、契約締結前に作業に着手せざるを得ない場合であっても、契約締結を前提とするメールのやり取りを残したり、作業に費用が発生する場合にはその旨をクライアントに伝えたりするなどの対応が必要です。そうすれば、契約締結上の過失が認められる(場合によっては契約の成立も認められる)かもしれませんし、契約締結上の過失が認められなかったとしても、クライアントとの交渉の中で、任意に費用の一部補填が受けられる場合もあるでしょう。
https://www.toben.or.jp/form/chusho1.html
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はじめに
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