経営お役立ちコラム

2021.06.15 【契約】

中小事業者等への「しわ寄せ」問題等に関する
Q&A集
クライアントから有償支給原材料等の対価の早期決済を要求された場合の対応方法

弁護士 間嶋 修平

Q
A社(資本金2000万円)は、自動車部品メーカーであるB社(資本金20億円)からエンジン部品の製造を受託し、同社から購入した原材料を用いて、エンジン部品を製造しています。
ところが、今般、B社からA社に対し、原材料の代金の支払方法につき、それを用いて製造したエンジン部品を納品する前に、原材料の代金を既に納品済みの別のエンジン部品についての下請代金から控除するとの連絡がありました。A社としては、その原材料を用いて製造したエンジン部品についての下請代金の支払期日よりも早い時期に、本来は全額支払われるべき別の下請代金から当該原材料の代金を控除されてしまうと、資金繰りの予定が狂ってしまうため、B社の要請には応じ難い状況です。どのように対応すればよいでしょうか。
A
B社の行為は、下請法で禁止される有償支給原材料等の対価の早期決済に該当するため、A社としては、下請法違反を主張し任意の交渉を行うほか、B社が交渉に応じない場合には、公正取引委員会、中小企業庁や各経済産業局その他相談窓口に調査・指導を求め相談することが考えられます。

(解説)

  1. B社が、A社に有償で支給した原材料等の対価を、当該原材料等を用いて製造した物品の下請代金の支払時期よりも早い時期に決済することは、下請法4条2項1号等に違反する可能性があります。そのような場合、A社としては、どのように対応すべきでしょうか。
  2. 前提として、下請法の適用の有無は、①取引当事者の資本金又は出資の総額の区別(3億円超、1千万円超3億円以下、5千万円超、1千万円超5千万円以下)、②取引の内容(製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託)の2つの側面から判断されます。
    まず②について、本件取引は、自動車部品メーカーであるB社が業として請け負うエンジン部品の製造をA社に委託することを内容とするため、「製造委託」に該当します(下請法2条1項)。
    次に①について、B社の資本金が3億円超、A社の資本金が3億円以下ですので、それぞれ親事業者、下請事業者の要件を充たしています(下請法2条7項1号、同条8項1号)。
    したがって、本件取引には下請法の適用がありますので、A社の責めに帰すべき理由がある場合を除き、B社がA社に有償で支給した原材料等の対価を早期に決済することは、下請法4条2項1号に違反することになります。(「下請事業者の責めに帰すべき理由」としては、①下請事業者が支給された原材料等を毀損し、又は損失したため、親事業者に納入すべき物品の製造が不可能となった場合、②支給された原材料等によって不良品や注文外の物品を製造した場合、③支給された原材料等を他に転売した場合などが考えられます。)
    よって、A社としては、B社の行為が下請法4条2項1号に違反することを指摘した上で、B社による早期決済を拒否するなど任意の交渉を行うほか、B社が交渉に応じない場合には、調査・指導を求めて、公正取引委員会、中小企業庁や各経済産業局その他相談窓口へ相談することを検討することが考えられます。
  3. 下請法4条2項1号は、親事業者が下請事業者に原材料等を「自己から購入させた場合」に適用がありますが、「自己以外の第三者から購入させた場合」には適用がありませんので、注意してください。また、親事業者が下請事業者に自己又は第三者から原材料等を強制的に購入させた場合の対応方法については、以下の記事をご参照ください。
    中小事業者等への「しわ寄せ」問題等に関するQ&A集 クライアントから商品の購入強制・役務の利用強制を受けた場合の対応方法|経営お役立ちコラム|中小企業法律支援センター|東京弁護士会 (cs-lawyer.tokyo)
  4. そして、本件と異なり、下請法の適用がない場合であっても、B社がA社に有償で支給した原材料等の対価を早期に決済することは、優越的地位の濫用(独占禁止法2条9項5号ハ)を理由とする独占禁止法違反が認められる可能性がありますので、参考にしてみてください。
  5. 以上のとおり、親事業者による早期決済への対応方法は種々考えられます。実務的には、親事業者が原材料等を有償で支給する場合、早期決済にならないようにするために、下請事業者から納入される物品の下請代金の支払制度や検査期間、下請事業者の加工期間等を考慮して、下請代金の支払と有償支給原材料等の対価の決済が「見合い相殺」になるよう、有償支給原材料等の対価の請求月や締日を調整することが多いです。
東京弁護士会 中小企業法律支援センター
https://www.toben.or.jp/form/chusho1.html

公正取引委員会・下請法に関する相談・申告等窓口
https://www.jftc.go.jp/shitauke/madoguti.html

中小企業庁・下請法申告受付窓口
https://mm-enquete-cnt.meti.go.jp/form/pub/jigyokankyo/shitaukeho_shinkoku
ご利用にあたって

各記事は執筆時点のものであり、記事内容およびリンクについてはその後の法改正などは反映しておりません。