経営お役立ちコラム
2021.06.15 【契約】
中小事業者等への「しわ寄せ」問題等に関する
Q&A集
クライアントから契約にない無償での追加作業を強制された場合の対応方法
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Q
クライアントから、契約にない追加の作業を無償で行うよう求められました。どのように対応すればよいでしょうか。 -
A
まずはクライアントに対し、その追加作業が契約の範囲外であるため無償では応じられない旨を伝えましょう。その上で、追加作業の内容や報酬額等について、新たに合意することが必要になるでしょう。それでもクライアントが追加作業を無償で行うよう求めてきた場合には、クライアントの行為は下請法違反になる可能性がありますので、その旨を指摘し、場合によっては公正取引委員会等の当局に相談することも考えられます。
(解説)
- 契約で定められた範囲外の業務については、基本的に履行する義務はありません。したがって、まずは、クライアントに対し、追加作業は契約の範囲外であるため無償では応じられない旨をはっきりと伝えることが大切です。
- その上で、クライアントから有償での追加作業を求められた場合には、作業の内容や報酬額について協議し、新たに合意することが必要です。その際は、合意内容について新たに契約書を交わすことが理想的ですが、クライアントから新たな契約書の作成を拒絶されるかもしれません。その場合でも、合意内容について後日トラブルが生じることを防ぐために、少なくとも、業務内容や報酬額などの基本的な事項についてメール等でやりとりを行い、記録として残しておくべきでしょう。
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クライアントが新たな契約の締結に応じず、なおも追加作業を無償で行うよう求めてきた場合、そのようなクライアントの行為は、下請法違反となる可能性があります。
下請法が適用されるか否かは、①取引当事者の資本金規模(親事業者が3億円超の法人で下請事業者が3億円以下の法人または個人か、親事業者が1千万円超3億円以下の法人で下請事業者が1千万円以下の法人または個人か、など)と②取引の内容(製造委託、修理委託、情報成果物作成委託および役務提供委託のいずれか)の両面から判断されます。そして、下請法上、親事業者は、「自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること」や、「下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の内容を変更させ」ることによって下請事業者の利益を不当に害してはならないものとされています(第4条2項3号、4号)。
そのため、本件で問題となっている取引が下請法の適用対象となる場合には、契約の範囲外の追加作業を強制するクライアントの上記行為は、「自己のために…経済上の利益を提供させ」または「給付の内容を変更」させたものとして、下請法違反に該当する可能性が高いといえます。
したがって、上記のような場合、クライアントにその旨を指摘し、それでもクライアントが応じない場合には、公正取引委員会等の当局へ相談・申告することを検討してもよいでしょう。 -
以上の対応は、クライアントの求める追加作業が契約の範囲外であることが明らかであることを前提としています。契約上、範囲外かどうか不明確な場合には、契約の文言や他の条項との整合性、締結に至った経緯等を総合考慮しつつ範囲外か否かを判断することになりますが、容易には判断できない場合がしばしば見られますので、そういった場合には弁護士等の専門家に相談することを検討してもよいでしょう。
また、こうした事態を防ぐためにも、クライアントとの間で契約を締結する際には、契約書において業務内容をできる限り具体的に記載し、行うべき業務の範囲を明確にしておくことが重要といえます。
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