経営お役立ちコラム
2021.07.12 【契約】
中小事業者等への「しわ寄せ」問題等に関する
Q&A集
クライアントから割引困難な手形を交付された場合の対応方法
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Q
A社(資本金1000万円)は、倉庫会社であるB社(資本金2億円)から同社が請け負う物品の倉庫における保管の一部を受託しているところ、B社より、下請代金は、「当月末日締め翌月末日払いでサイト180日の手形を交付する」と説明がありました。このような長期手形では一般の金融機関で割り引くことが難しいため、資金が必要になった際に現金化できず、困ります。どのように対応すればよいでしょうか。 -
A
B社の行為は、下請法で禁止される割引困難な手形の交付に該当するため、A社としては、下請法違反を主張し任意の交渉を行うほか、B社が交渉に応じない場合には、公正取引委員会、中小企業庁や各経済産業局その他相談窓口に調査・指導を求め相談することが考えられます。
(解説)
- B社が、A社に対し、下請代金を手形で支払う場合に、一般の金融機関1で割り引くことが困難な手形を交付することは、下請法4条2項2号等に違反する可能性があります。そのような場合、A社としては、どのように対応すべきでしょうか。
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前提として、下請法の適用の有無は、①取引当事者の資本金又は出資の総額の区別、②取引の内容(製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託)の2つの側面から判断されます。
まず②について、本件取引は、倉庫会社であるB社が業として請け負う物品の倉庫における保管の一部をA社に委託することを内容とするため、「役務提供委託」に該当します(下請法2条4項)。
次に①について、B社の資本金が1千万円超3億円以下、A社の資本金が1千万円以下ですので、それぞれ親事業者、下請事業者の要件を充たしています(下請法2条7項2号、同条8項2号)。
したがって、本件取引には下請法の適用があります。 -
「割引を受けることが困難であると認められる手形」か否かは、一般的に、その業界の商慣行、親事業者と下請事業者との取引関係、その時の金融情勢等を総合的に勘案して、ほぼ妥当と認められる手形期間(従来の運用では、繊維業は90日、その他の業種は120日)を超える長期の手形と解されています。ただし、令和3年3月31日、中小企業庁と公正取引委員会において、「下請代金の支払手段について」(平成28年12月14日20161207中第1号・公取企第140号)を見直す方針が示され、新型コロナウイルス感染症による現下の経済状況を踏まえつつ、概ね3年以内を目途として、以下の3つの要請内容を実施することが示されています(「下請代金の支払手段について」(令和3年3月31日20210322中庁第2号・公取企第25号))。
- ① 下請代金の支払は、できる限り現金によるものとすること。
- ② 手形等により下請代金を支払う場合には、当該手形等の現金化にかかる割引料等のコストについて、下請事業者の負担とすることのないよう、これを勘案した下請代金の額を親事業者と下請事業者で十分協議して決定すること。当該協議を行う際、親事業者と下請事業者の双方が、手形等の現金化にかかる割引料等のコストについて具体的に検討できるように、親事業者は、支払期日に現金により支払う場合の下請代金の額並びに支払期日に手形等により支払う場合の下請代金の額及び当該手形等の現金化にかかる割引料等のコストを示すこと。
- ③ 下請代金の支払に係る手形等のサイトについては、60日以内とすること。
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本件について、B社は、下請代金について、「当月末日締め翌月末日払いでサイト180日の手形を交付する」としています。このような長期手形では、従来の運用に照らしても、一般の金融機関で割り引くことが困難ですので、B社がA社に下請代金を手形で支払う場合に、当該手形を交付することは、下請法4条2項2号に違反することになります。
よって、A社としては、B社の行為が下請法4条2項2号に違反することを指摘した上で、B社に対し、下請代金の支払を現金で行うことや手形のサイトの短縮を求めるなど任意の交渉を行うほか、B社が交渉に応じない場合には、調査・指導を求めて、公正取引委員会、中小企業庁や各経済産業局その他相談窓口へ相談することを検討することが考えられます。 -
なお、親事業者がほぼ妥当と認められる手形期間内の手形を交付した場合であっても、結果的に下請事業者が手形の割引を受けられなかったときは、そもそも下請代金の支払があったとはいえず、支払遅延(下請法4条1項2号)に該当することになります。支払遅延の場合の対応については、以下の記事をご参照ください。
中小事業者等への「しわ寄せ」問題等に関するQ&A集 クライアントが報酬の支払いを拒否/遅延した場合の対応方法|経営お役立ちコラム|中小企業法律支援センター|東京弁護士会 (cs-lawyer.tokyo) - そして、本件と異なり、下請法の適用がない場合であっても、B社がA社に下請代金を手形で支払う場合に、一般の金融機関で割り引くことが困難な手形を交付することは、優越的地位の濫用(独占禁止法2条9項5号ハ)を理由とする独占禁止法違反が認められる可能性がありますので、参考にしてみてください。
- 以上のとおり、親事業者による割引困難な手形の交付への対応方法は種々考えられますが、予防策として、契約書や3条書面(下請法3条に基づき、委託内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項が記載された書面)において、下請代金の額、支払期日や支払方法(現金払い/手形払いの場合はサイト)を明記しておくと良いでしょう。
https://www.toben.or.jp/form/chusho1.html
公正取引委員会・下請法に関する相談・申告等窓口
https://www.jftc.go.jp/shitauke/madoguti.html
中小企業庁・下請法申告受付窓口
https://mm-enquete-cnt.meti.go.jp/form/pub/jigyokankyo/shitaukeho_shinkoku
- 1 「一般の金融機関」とは、銀行、信用金庫、信用組合、商工組合中央金庫等の預貯金の受入れと資金の融通を併せて業とする者をいい、貸金業者は含まれません(下請法4条2項2号参照)。
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