経営お役立ちコラム
2021.08.25 【契約】
中小事業者等への「しわ寄せ」問題等に関する
Q&A集
クライアントから不当な給付内容の変更又は不当なやり直しを要求された場合の対応方法
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Q
修理会社であるA社(資本金500万円)は、自動車ディーラーであるB社(資本金4億円)から同社が顧客から請け負う自動車の修理業務を受託しました。しかし、その後、B社より、顧客から修理の依頼を取り消されたことを理由として、それまでにA社が要した費用を負担することなく、発注を取り消すとの申入れがありました。A社としては、どのように対応すればよいでしょうか。 -
A
B社の行為は、下請法で禁止される不当な給付内容の変更又は不当なやり直しに該当するため、A社としては、下請法違反を主張し任意の交渉を行うほか、B社が交渉に応じない場合には、公正取引委員会、中小企業庁や各経済産業局その他相談窓口に調査・指導を求め相談することが考えられます。
(解説)
- B社が、A社に対し、費用を負担せずに給付内容の変更又は受領後に給付をやり直させることは、下請法4条2項4号等に違反する可能性があります。そのような場合、A社としては、どのように対応すべきでしょうか。
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前提として、下請法の適用の有無は、①取引当事者の資本金又は出資の総額の区別、②取引の内容(製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託)の2つの側面から判断されます。
まず②について、本件取引は、自動車ディーラーであるB社が業として請け負う自動車の修理業務の全部又は一部をA社に委託することを内容とするため、「修理委託」に該当します(下請法2条2項)。
次に①について、B社の資本金が3億円超、A社の資本金が3億円以下ですので、それぞれ親事業者、下請事業者の要件を充たしています(下請法2条7項1号、同条8項1号)。
したがって、本件取引には下請法の適用があります。 -
親事業者は、下請事業者に対して、「下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに」、費用を負担せずに「給付内容の変更又は受領後に給付をやり直させる」ことにより、下請事業者の利益を「不当に害する」場合には、下請法4条2項4号に違反することになります。
「給付内容の変更」とは、給付の受領前に、3条書面(下請法3条に基づき、委託内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項が記載された書面)に記載されている委託内容を変更し、当初の委託内容とは異なる作業を行わせることをいいます。発注の取消(契約の解除)も「給付内容の変更」に該当します。また、「受領後に給付をやり直させること」とは、給付の受領後に、給付に関して追加的な作業を行わせることをいいます。こうした給付内容の変更や受領後に給付をやり直させることにより、下請事業者がそれまでに行った作業が無駄になり、あるいは下請事業者に当初の委託内容にない追加的な作業を余儀なくさせる場合に、親事業者がその費用を負担しないことは下請事業者の利益を「不当に害する」ことになります(親事業者が必要な費用を負担するなど、下請事業者の利益を不当に害しないと認められる場合には、下請法違反にはなりません。)。
一般的には、以下の場合に、親事業者が費用の全額を負担することなく、給付内容の変更又はやり直しを要請することは、不当な給付内容の変更又は不当なやり直しに該当する可能性があります。- ① 下請事業者の給付の受領前に、下請事業者から委託内容を明確にするよう求めがあったにもかかわらず、親事業者が正当な理由なく仕様を明確にせず、下請事業者に継続して作業を行わせ、その後、給付の内容が当初委託した内容と異なるとする場合
- ② 取引の過程において、委託内容について下請事業者が提案し、確認を求めたところ、親事業者が了承したので、下請事業者が当該内容に基づき製造等を行ったにもかかわらず、給付の内容が当初委託した内容と異なるとする場合
- ③ 恣意的に検査基準を厳しくし、当初委託した内容と異なる又は瑕疵等があるとする場合
- ④ 通常の検査で瑕疵等があること又は委託内容と異なることを直ちに発見できない下請事業者からの給付について、受領後1年を経過した場合(ただし、親事業者が顧客等(一般消費者に限られない。)に対して1年を超えた瑕疵担保期間を契約している場合に、親事業者と下請事業者がそれに応じた瑕疵担保期間をあらかじめ定めている場合は除く。)1
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本件において、B社は、給付の受領前に、取引先の都合を理由として発注を取り消しています(給付内容の変更)。本件において、A社の責めに帰すべき理由はありませんので、B社がA社に費用を負担せずに給付内容の変更又は受領後に給付をやり直させることは、下請法4条2項4号に違反することになります。
よって、A社としては、B社の行為が下請法4条2項4号に違反することを指摘した上で、B社に対し、それまでにA社が要した費用の支払を求めるなど任意の交渉を行うほか、B社が交渉に応じない場合には、調査・指導を求めて、公正取引委員会、中小企業庁や各経済産業局その他相談窓口へ相談することを検討することが考えられます。 - そして、本件と異なり、下請法の適用がない場合であっても、B社がA社に費用を負担せずに給付内容の変更又は受領後に給付をやり直させることは、優越的地位の濫用(独占禁止法2条9項5号ハ)を理由とする独占禁止法違反が認められる可能性がありますので、参考にしてみてください。
- 以上のとおり、不当な給付内容の変更又は不当なやり直しへの対応方法は種々考えられますが、予防策として、契約書や3条書面において、委託内容、下請代金の額、契約内容の変更・追加の方法、中途解約に伴う損害賠償などを明記しておくと良いでしょう。
https://www.toben.or.jp/form/chusho1.html
公正取引委員会・下請法に関する相談・申告等窓口
https://www.jftc.go.jp/shitauke/madoguti.html
中小企業庁・下請法申告受付窓口
https://mm-enquete-cnt.meti.go.jp/form/pub/jigyokankyo/shitaukeho_shinkoku
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1 改正民法では、「隠れた瑕疵」があるという要件は、「目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないもの」(契約不適合)であることに改正されました。また、担保責任の期間制限に関し、1年間の期間制限は、引き渡された目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合にのみ適用されることとし、その権利保存の方法は、契約不適合であることを通知すれば足りるとされています(民法566条)。
①ないし④は、「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」(平成28年12月14日公正取引委員会事務総長通達第15号)の例示を引用しています。本記事作成時点で、改正民法の内容を踏まえた変更等は加えられておりませんが、今後、変更等が加えられる可能性がありますので、同運用基準等の動向については着目していく必要があるものと思料いたします。
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