経営お役立ちコラム
2021.10.29 【労務】
同一労働・同一賃金に関する
Q&A集
「同一労働同一賃金ガイドライン」はどのように活用すればよいのですか。
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Q
「同一労働同一賃金ガイドライン」はどのように活用すればよいのですか。 -
A
「同一労働同一賃金ガイドライン」(以下「ガイドライン」といいます。)は、正式名称を「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(厚生労働省告示第430号)といいます。ガイドラインは、雇用形態にかかわらない均等・均衡待遇を確保し、同一の労働に対しては同一の賃金を支払うことを目的に策定されたもので、具体的には、正社員と非正規雇用労働者(例えば、パートタイム労働者や派遣社員)との間で、待遇の相違が存在する場合に、いかなる待遇の相違が不合理であり、いかなる待遇の相違が不合理なものでないのかについて原則となる考え方と具体例を示したものです。
会社はガイドラインを参考に、正社員と非正規雇用労働者との間の各種待遇に不合理な相違がないかどうかを検証し、問題があれば改める必要があります。ただし、ガイドラインは原則となる考え方と一定の待遇に関する具体例を示したものでしかないため、ガイドラインを踏まえつつ、自社の事情も考慮に入れて、各種待遇について検討する必要があります。そのために、労使により、会社や各労働者の個別具体の事情に応じて待遇の体系について議論していくことが必要となります。その際には、弁護士等の専門家に相談することが重要です。
(解説)
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「同一労働同一賃金ガイドライン」とは
「同一労働同一賃金ガイドライン」は、正式名称を「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(厚生労働省告示第430号)といいます。
ガイドラインは、「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善などに関する法律(パート有期法)8条及び9条並びに労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(労働者派遣法)30条の3及び30条の4に定める事項に関し、雇用形態又は就業形態に関わらない公正な待遇を確保し、我が国が目指す同一労働同一賃金の実現に向けて定める」ことを目的としています。パート有期法8条・9条や労働者派遣法30条の3では、通常の労働者いわゆる正社員と、短時間・有期雇用労働者や派遣社員といった非正規雇用労働者との間で、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、不合理と認められる相違や差別的な取り扱いを禁止しています。
ガイドラインは、正社員と非正規雇用労働者との間で、待遇の相違が存在する場合に、いかなる待遇の相違が不合理であり、いかなる待遇の相違が不合理なものでないのかについて原則となる考え方と具体例を示したものです。
会社は、正社員と非正規雇用労働者との間との間の各種待遇に相違がある場合には、ガイドラインを参考に、正社員と非正規雇用労働者との間との間の各種待遇に不合理な相違がないかどうかを検証し、問題があれば改める必要があります。 - ガイドラインに記載されている内容
ガイドラインでは、非正規雇用労働者である、①短時間・有期雇用労働者、②派遣労働者、③協定対象派遣労働者の各種待遇(①、②は基本給、賞与、手当、福利厚生等の待遇、③は賃金、福利厚生等の待遇)についての基本的な考え方と、具体例として、(問題とならない例)と(問題となる例)が記載されています。本稿末尾に、参考として①短時間労働・有期雇用労働者の「基本給」に関するガイドラインの一部を挙げておきます。 -
注意点
ガイドラインの活用に当たってはいくつか注意することがあります。-
① ガイドラインに記載のない待遇についても検討が必要
ガイドラインには給与、手当、賞与といった賃金(労働基準法11条)にとどまらず、病気休職等の福利厚生や「その他」として教育訓練等についても記載しています。一方で、ガイドラインには、退職手当、住宅手当、家族手当等の待遇については記載がありません。しかしながら、法律では「基本給、賞与、その他の待遇それぞれについて」不合理な相違を設けてはならないとされています(パート有期法8条・労働者派遣法30条の3)。したがって、ガイドラインに記載のない手当等の待遇であっても不合理な待遇差の解消等が求められます。 -
② 雇用管理区分が複数ある場合
総合職や地域限定社員など雇用管理区分が複数ある場合であっても、正社員のそれぞれと非正規雇用労働者との間での不合理な待遇差の解消が求められます。したがって、会社が雇用管理区分を新たに設け、当該雇用管理区分に属する正社員の待遇の水準を他の正社員よりも低く設定した場合でも、当該他の正社員と非正規雇用労働者との間でも不合理な待遇差が生じないようにする必要があります。 -
③ 職務の内容等を分離した場合
パート有期法8条・労働者派遣法30条の3では「職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない」とされています。正社員と非正規雇用労働者との間で職務の内容を分離した場合であっても当然に異なる待遇を設けてよいわけではなく、職務の内容や各待遇の性質等を考慮して、正社員と非正規雇用労働者との間での不合理な待遇の相違が生じないことが求められます。 -
④ 正社員の待遇の一方的な引き下げはできない
正社員と非正規雇用労働者との待遇の相違を解消するため、就業規則を変更することにより正社員の待遇を下げることが考えられます。しかしながら、労働契約の内容である労働条件を不利益に変更する場合にも原則として労働者の合意が必要です(労働契約法9条)。例外的に労働者の合意なく就業規則を不利益に変更することが認められますが、その場合であっても、その変更は合理的なものである必要があります(労働契約法10条)。ただし、例外的に認められるとしても非正規雇用労働者のために待遇が一方的に下げられたと思われては、正社員のモチベーションの低下にもつながりかねませんので、正社員と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差を解消するにあたり、事業者が就業規則の変更等により一方的に正社員の待遇を引き下げることは適切な対応とはいえません。
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① ガイドラインに記載のない待遇についても検討が必要
短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針(ガイドライン)からの抜粋
第3 短時間・有期雇用労働者
(中略)1 基本給
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(1)基本給であって、労働者の能力又は経験に応じて支給するもの
基本給であって、労働者の能力又は経験に応じて支給するものについて、通常の労働者と同一の能力又は経験を有する短時間・有期雇用労働者には、能力又は経験に応じた部分につき、通常の労働者と同一の基本給を支給しなければならない。また、能力又は経験に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた基本給を支給しなければならない。
(問題とならない例)
- イ 基本給について、労働者の能力又は経験に応じて支給しているA社において、ある能力の向上のための特殊なキャリアコースを設定している。通常の労働者であるXは、このキャリアコースを選択し、その結果としてその能力を習得した。短時間労働者であるYは、その能力を習得していない。A社は、その能力に応じた基本給をXには支給し、Yには支給していない。
- ロ (中略)
- ハ (中略)
- ニ (中略)
基本給について、労働者の能力又は経験に応じて支給しているA社において、通常の労働者であるXが有期雇用労働者であるYに比べて多くの経験を有することを理由として、Xに対し、Yよりも基本給を高く支給しているが、Xのこれまでの経験はXの現在の業務に関連性を持たない。 -
(2)基本給であって、労働者の業績又は成果に応じて支給するもの
基本給であって、労働者の業績又は成果に応じて支給するものについて、通常の労働者と同一の業績又は成果を有する短時間・有期雇用労働者には、業績又は成果に応じた部分につき、通常の労働者と同一の基本給を支給しなければならない。また、業績又は成果に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた基本給を支給しなければならない。
なお、基本給とは別に、労働者の業績又は成果に応じた手当を支給する場合も同様である。
(問題とならない例)- イ 基本給の一部について、労働者の業績又は成果に応じて支給しているA社において、所定労働時間が通常の労働者の半分の短時間労働者であるXに対し、その販売実績が通常の労働者に設定されている販売目標の半分の数値に達した場合には、通常の労働者が販売目標を達成した場合の半分を支給している。
- ロ (中略)
基本給の一部について、労働者の業績又は成果に応じて支給しているA社において、通常の労働者が販売目標を達成した場合に行っている支給を、短時間労働者であるXについて通常の労働者と同一の販売目標を設定し、それを達成しない場合には行っていない。 -
(3)基本給であって、労働者の勤続年数に応じて支給するもの
基本給であって、労働者の勤続年数に応じて支給するものについて、通常の労働者と同一の勤続年数である短時間・有期雇用労働者には、勤続年数に応じた部分につき、通常の労働者と同一の基本給を支給しなければならない。また、勤続年数に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた基本給を支給しなければならない。
(問題とならない例) 基本給について、労働者の勤続年数に応じて支給しているA社において、期間の定めのある労働契約を更新している有期雇用労働者であるXに対し、当初の労働契約の開始時から通算して勤続年数を評価した上で支給している。
(問題となる例)
基本給について、労働者の勤続年数に応じて支給しているA社において、期間の定めのある労働契約を更新している有期雇用労働者であるXに対し、当初の労働契約の開始時から通算して勤続年数を評価せず、その時点の労働契約の期間のみにより勤続年数を評価した上で支給している。 -
(4)昇給であって、労働者の勤続による能力の向上に応じて行うもの
昇給であって、労働者の勤続による能力の向上に応じて行うものについて、通常の労働者と同様に勤続により能力が向上した短時間・有期雇用労働者には、勤続による能力の向上に応じた部分につき、通常の労働者と同一の昇給を行わなければならない。また、勤続による能力の向上に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた昇給を行わなければならない。
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「同一労働同一賃金ガイドライン」とは
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