経営お役立ちコラム
2022.01.27 【労務】
同一労働・同一賃金に関する
Q&A集
「同一労働同一賃金」に違反しないような賃金制度の構築・運用をするには、どのようにすればよいでしょうか。
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Q
「同一労働同一賃金」に違反しないような賃金制度(賃金以外の待遇を含む。以下略。)の構築・運用をするには、どのようにすればよいでしょうか。 -
A
厚生労働省発行の「パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書」を参考に、現在の賃金制度を点検し、必要に応じて短時間・有期雇用労働者と正社員との待遇差の是正に向けた対応を検討・実施するという手順で進めるとよいでしょう。
(解説)
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はじめに
「同一労働同一賃金」とは、同一企業内におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(短時間・有期雇用労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消を目指して導入された制度です。
「同一労働同一賃金」は、大企業のみならず、中小企業にも適用されますので、すべての企業において、同制度に違反しないような賃金制度の構築・運用を行うことが必要となります。 - 「同一労働同一賃金」への対応に向けた取組手順
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(1) 「同一労働同一賃金」に違反しないような賃金制度の構築や運用に関しては、厚生労働省発行の「パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書」が参考となります。この手順書で紹介されている取組の手順の概要は、以下のとおりです。
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【手順1】:労働者の雇用形態を確認する。
→ 短時間・有期雇用労働者の有無を確認します。 -
【手順2】:待遇の状況を確認する。
→ 短時間・有期雇用労働者の区分ごとに、賃金(賞与・手当を含む)や福利厚生などの待遇について、正社員と取扱いの違いの有無を確認します。 -
【手順3】:待遇に違いがある場合、違いを設けている理由を確認する。
→ 短時間・有期雇用労働者と正社員との間で働き方や役割などが異なる場合には、それに応じて賃金(賞与・手当を含む)や福利厚生などの待遇が異なることはあり得ます。そこで、これらの待遇の違いが、働き方や役割の違いに応じた「不合理ではない」ものか否かを確認します。 -
【手順4】:手順2・3で、待遇に違いがあった場合、その違いが「不合理ではない」ことを説明できるように整理する。
→ 事業主は、労働者の待遇の内容・待遇の決定に際して考慮した事項、正社員との待遇差の内容やその理由について労働者から説明を求められた場合には、これを説明しなければなりません。そこで、短時間・有期雇用労働者の区分ごとに、正社員との待遇の違いが「不合理ではない」ことを説明できるように整理しておきましょう。労働者に説明する内容をあらかじめ文書に記してまとめておくといいかもしれません。前記取組手順書には、説明書モデル様式(記載例)も掲載されていますので、参考にしてみてください。 -
【手順5】:待遇の違いが「不合理ではない」と言い難い場合、その待遇差の是正に向けた対応を検討・実施する。
→ 短時間・有期雇用労働者と正社員との待遇の違いが「不合理ではない」と言い難い場合には、待遇の見直しも含め、是正に向けた対応を検討・実施する必要があります。
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【手順1】:労働者の雇用形態を確認する。
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(2) 【手順5】に関し、待遇差の是正方法としては、①短時間・有期雇用労働者又は正社員の待遇の変更(ⅰ短時間・有期雇用労働者の待遇を改善する、ⅱ正社員の待遇を引き下げる、ⅲ短時間・有期雇用労働者を正社員化する等)、あるいは、②短時間・有期雇用労働者及び正社員が担う職務内容その他の条件の見直しのいずれか又はこれらを組み合わせることが考えられます。是正を図る過程においては、人件費のシミュレーション、待遇改善のための資金の確保、労働組合や従業員代表者等との協議、就業規則・給与規程の改定、給与システムの改修、労働者への周知・説明等の対応が必要となる可能性があります。
待遇差の是正に関連して、同一労働同一賃金ガイドライン(厚生労働省告示第430号「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」)において、(1)雇用管理区分を新たに設け、当該雇用管理区分に属する通常の労働者(正社員)の待遇水準を他の通常の労働者(正社員)よりも低く設定する、(2)不合理な待遇の相違等が残る形で、通常の労働者(正社員)と短時間・有期雇用労働者等との間で形式的に職務内容等を分離する、という手法では不合理な待遇差は解消されないとの考え方が示されています。企業においては、これらの手法を採用することで満足することのないように注意する必要があります。
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(1) 「同一労働同一賃金」に違反しないような賃金制度の構築や運用に関しては、厚生労働省発行の「パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書」が参考となります。この手順書で紹介されている取組の手順の概要は、以下のとおりです。
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具体的な待遇ごとの考え方
厚生労働省は、同一労働同一賃金ガイドラインにおいて、パートタイム・有期雇用労働法に基づき、正社員と短時間・有期雇用労働者との間における不合理な待遇差の解消に向けた原則となる考え方や具体例について、個別の待遇ごとに「問題となる例」「問題とならない例」を解説しています。以下の一覧表は、同一労働同一賃金ガイドラインで示されている待遇差の見直しのポイントを整理したものになりますので、待遇の違いについて不合理ではないかを検討する際に参照されるとよいでしょう。また、同一労働同一賃金ガイドラインと裁判例を踏まえた各待遇の対応については、本特集の他の記事で解説しておりますので、そちらも参考にしてください。
【ガイドラインが示す待遇差の見直しの方向性】
※ 個別の待遇への具体的な対応については、本特集の他の記事をご参照ください。★:基本的に同一の支給、付与が求められるもの
●:職務及び職務環境等の前提条件が同一の場合には同一の支給、付与(均等待遇)
○:均等待遇+相違がある場合には相違に応じて支給、付与(均衡待遇)
△:ガイドラインで原則となる考え方が示されていないもの
※ 「均等待遇」「均衡待遇」の意義や内容については、別の記事「「同一労働同一賃金」を定める法律にはどのようなものがあり、主にどのようなルールがあるのですか。」で解説しておりますので、そちらをご参照ください。基本給、昇給 ○ 基本給であって、労働者の①能力又は経験、②業績又は成果、③勤続年数に応じて支給するものについて、各条件が同じであれば同一の支給をし、一定の相違がある場合には、その相違に応じた支給をする。
また、昇給であって、労働者の勤続による能力の向上に応じて行うものについて、能力の向上度が同じであれば同一の昇給をさせ、一定の相違がある場合には、その相違に応じた昇給をさせる。賞与 ○ 賞与であって、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給するものについて、貢献度が同じであれば同一の支給をし、一定の相違がある場合には、その相違に応じた支給をする。 退職金 △ 各事業主において、労使により、個別具体的事情に応じて待遇の体系について議論していくことが望まれる。 役職手当 ○ 役職手当であって、役職の内容に対して支給するものについて、同一の内容の役職に就く場合には同一の支給をし、一定の相違がある場合には、その相違に応じた支給をする。 特殊作業手当 ● 同一の危険度又は作業環境の業務に従事する場合には同一の支給をする。 特殊勤務手当 ● 同一の勤務形態で業務に従事する場合には同一の支給をする。 精皆勤手当 ● 業務内容が同一であれば同一の支給をする。 時間外手当、深夜手当、休日手当 ★ 同一の時間外、深夜又は休日労働を行った場合には同一の割増率等で支給する。 通勤手当、出張旅費 ★ 同一の支給をする。 食事手当 ★ 労働時間の途中に食事のための休憩時間がある場合には同一の支給をする。 単身赴任手当 ● 同一の支給要件を満たす場合には同一の支給をする。 地域手当 ● 同一の地域で働く場合には同一の支給をする。 家族手当 △ 各事業主において、労使により、個別具体的事情に応じて待遇の体系について議論していくことが望まれる。 住宅手当 △ 各事業主において、労使により、個別具体的事情に応じて待遇の体系について議論していくことが望まれる。 福利厚生施設 ★ 同一の事業者で働く場合には同一の利用を認める。 転勤者用社宅 ● 同一の支給要件(例:転勤の有無、扶養家族の有無、住宅の賃貸又は収入の額)を満たす場合には同一の利用を認める。 慶弔休暇、健康診断に伴う勤務免除、給与保障 ★ 同一の付与、勤務免除及び有給保障を行う。 病気休職 ○ 無期雇用の短時間労働者には同一の休職を認める。有期雇用労働者には労働契約が終了するまでの期間を踏まえて休職の取得を認める。 法定外の有給休暇 ○ 法定外の有給休暇その他の法定外休暇(慶弔休暇を除く)であって、勤続期間に応じて取得を認めているものについて、同一の勤続期間である場合には同一の付与をする。 教育訓練 ○ 教育訓練であって、現在の職務遂行に必要な技能又は知識を習得するために実施するものについて、職務内容が同一である場合には同一の教育訓練を実施し、一定の相違がある場合には、その相違に応じた教育訓練を行う。 安全管理 ★ 同一の業務環境に置かれている場合には同一の安全管理措置及び給付を行う。 以上の記事に関するご不明点、同一労働同一賃金を含む働き方改革への対応その他労務問題に関するご相談は、中小企業・個人事業主の法的支援を専門に扱う「中小企業法律支援センター」の相談窓口まで、お気軽にお問い合わせください。
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はじめに
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