経営お役立ちコラム
2024.03.22 【労務】
業務委託契約書を調印している場合でも,残業代を支払わなければならない場合や,契約の解消が厳しく制限される場合があるのでしょうか。
- Q,
弊社では塾を経営しており,その講師の一部とは業務委託契約を締結しています。その講師には,講義のコマ数に応じた固定の報酬をこれまで支払っていたのですが,先日,講師の一人であるAさんからの残業代の請求書が弊社に届きました。弊社としては,Aさんとの契約は業務委託契約であり,労働契約でないため,残業代を支払わなくてよいものと考えているのですが,支払わなければならないのでしょうか。 -
A,
契約書の表題・形式が「業務委託契約」であったとしても,後述する①から⑥の要素を総合的に考慮した結果として,Aさんが労働基準法上の「労働者」に該当する場合には,残業代を支払わなければならない可能性があります。
解説
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契約書のタイトルや契約の名称が「業務委託契約」や「業務請負契約」といった,労働契約でない契約であったとしても,仕事を受ける側(受注側)が,労働基準法,労働契約法等の労働関連法令における「労働者」に該当する場合には,これらの労働関連法令の適用を受けることになります。
受注側が「労働者」に該当すると,受注側が法定時間外の労働をした場合には,仕事の依頼主(発注側)としては,残業代を支払わなければならなくなる可能性がありますし,いわゆる「解雇」に当たるとして,発注側から契約を解除することが厳しく制限される可能性もあります。その他,発注側としては,労働関連法令による制約を受けることになります。 -
そこで,どのような場合に受注側が「労働者」に該当するかが問題となりますが,この点が問題となった裁判例は,概ね,次の判断基準を総合的に考慮して判断しています。
- ①仕事の依頼に対する諾否の自由の有無
- ②業務遂行上の指揮監督の有無
- ③時間的場所的拘束性の有無
- ④労務提供の代替性の有無(例えば、本人に代わって他の者が労務提供することが認められている場合には労働者性が否定される方向に傾く)
- ⑤報酬の労務対償性(例えば,報酬が時間給を基礎として計算される等,労働の結果にかかわらず一定時間労務を提供していることに対する対価と判断される場合には労働者性が肯定される方向に傾く)
- ⑥その他の事情(機械器具の負担、報酬額等に現れた事業者性、専属性、公租公課の負担等)
- 本件のように,雇用契約以外の形式で就労する講師について,労働者性を認めた裁判例は存在しますが,「労働者」該当性は,具体的な事案に即した判断が必要になります。そのため,講師であるからといって必ずしも労働者となるわけではなく,上記①~⑥の要素を総合考慮して「労働者」に該当するか否かが判断されることになります。
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契約書のタイトルや契約の名称が「業務委託契約」や「業務請負契約」といった,労働契約でない契約であったとしても,仕事を受ける側(受注側)が,労働基準法,労働契約法等の労働関連法令における「労働者」に該当する場合には,これらの労働関連法令の適用を受けることになります。
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