経営お役立ちコラム

2024.08.19 【事業承継】

会社の株式や事務所が、社長の個人所有のままなのですが、社長が認知症になってしまった場合、事業承継を進めるにはどうしたらいいですか?【社長が認知症の場合】

弁護士 亀ヶ谷 貴之

1 認知症が進むと事業承継が困難に!

認知症の患者数は、600万人を超え、2025年には700万人を超えると予想されています。これは、高齢者の5人に1人が認知症患者になることを意味しています。認知症は、事業承継にも重大な影響を及ぼします。
たとえば、認知症が、自らの行為の法的な意味を理解する能力(「意思能力」といいます)がなくなったと言えるほどに進んでしまった場合、そのような状態で行った法律行為は無効になってしまいます。
具体例を挙げると、社長は本格的に事業承継を進めようと考えていましたが、会社の株式や事務所などの事業に関連する重要な資産を個人として所有したままだったとします。その矢先に認知症を患い、瞬く間に症状がひどくなって、意思能力を欠く状態になってしまった場合、社長自らがそれらの資産を後継者に法的に有効に承継させることが非常に難しくなってしまうのです。

2 認知症になった人が事業承継をするには?

  1. (1) 軽度の認知症の場合
    意思能力を欠くとまでは言えない人の場合であれば、事業承継のために株式や資産を移転させる選択肢はいくつかあります。生存中に移転する方法として、贈与や売買などの契約がありますし、死亡時に移転する方法として、生存中に遺言を行うという方法があります。
    もっとも、社長の意思がころころ変わったり、言ったことを忘れたり、トラブルや信頼関係の喪失につながるリスクはあります。また、遺言の場合には、死後にその有効性が争われるおそれもあるため注意が必要です。
  2. (2) 重度の認知症の場合
    意思能力を欠く状態の人が贈与や売買などの契約をしようとする場合、家庭裁判所で成年後見人を選任してもらい、成年後見人が本人に代わって契約を締結する必要があります。ただ、選任される成年後見人は、必ずしも経営の専門家ではないため、事業承継について適切な判断がされないおそれがあります。
    また、遺言は、成年後見人が代わって行うことはできず、本人自身が、その意思能力が一時的に回復している状態で、行わなければなりません(医師2名の立ち会い要)。もっとも、重度の認知症の場合、事業承継という複雑な判断ができるだけの状態に回復する可能性は低いでしょう。

3 認知症になる前に事業承継を!

このように、認知症になってから事業承継のための資産移転を行うのは困難です。事業承継については、早い段階から弁護士等の専門家にご相談ください。当センターでは、事案に即した適切な弁護士を紹介する制度があります。是非、当センターへご相談ください。

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