経営お役立ちコラム

2025.03.13 【SDGs】

中小企業と従業員の人権
-SDGsの目標と尊重される人権及び法令遵守事項-

弁護士 彦田 拓眞

1 従業員に関するSDGsの目標と尊重される人権について

近年、長時間労働や過労死、パワハラやセクハラ、管理職の男女人数比の不均衡、LGBTQや障がい者、外国人労働者への差別、非正規従業員の増加等、労働者に関する社会的問題をよく耳にします。これらの問題は日本のみならず、世界的にも企業が取り組むべき課題として認識されており、SDGsは従業員に関し「4 質の高い教育をみんなに」「5 ジェンダー平等を実現しよう」「8 働きがいも経済成長も」「10 人や国の不平等をなくそう」といった目標を掲げ、各課題の解決を図っています。
上記の各目標は日本の法令とも密接に関連しており、例えばあらゆる形態の差別や不平等の撤廃を目指す目標5及び10は、平等権を定める日本国憲法14条や、労働基準法3条、男女雇用機会均等法や障害者雇用促進法等と軌を一にします。また、目標8はディーセントワーク(「働きがいのある人間らしい雇用」)の達成を掲げていますが、これは労働基準法や最低賃金法の趣旨・目的と一致します。中小企業の経営者は、こうした従業員の人権に配慮し、社内における人権課題の解決に取り組む必要があります。

2 従業員に関する法令遵守事項の概要について

従業員の人権に配慮した経営の実現のためには、企業毎の自主的取組を実施することも非常に有益ですが、まずはSDGsコンプライアンス(法令遵守)状況を確認する事こそがその第一歩となります。我が国においては、下記のとおり労働者の人権を保護するための様々な法令が整備されています。

  1. (1) 差別の禁止(労働基準法3条、男女雇用機会均等法5条及び6条)
  2. (2) 適正な労働時間の確保と適切な賃金支払い(労働基準法32条、36条、37条等)
  3. (3) 年次有休休暇の付与(労働基準法39条)
  4. (4) 労働者の妊娠・出産、育児休業、介護休業等に関する制度(男女雇用機会均等法12条及び13条、労働基準法64条の2~68条、育児・介護休業法)
  5. (5) ハラスメント防止の明確化(労働施策総合推進法30条の2関係、男女雇用機会均等法11条関係、育児・介護休業法25条関係)
  6. (6) 労働安全衛生法による労働者保護(安全衛生教育の実施(59 条)、労働災害を防止するための措置(20条、21条、25条)、快適な職場環境の形成(71条の2~71条の4)等)
  7. (7) 労災保険法による労働者保護(12条の8等(業務災害に関する保険給付))
  8. (8) 労働契約の終了に関する規制(労働契約法16条、17条、19条、労働基準法20条、22条)
  9. (9) 障がい者の雇用(障害者差別解消法)

SDGsコンプライアンスの遵守は、従業員のモチベーションを向上させ、ひいては企業の生産性の向上、外部からの高評価へとつながることが期待できます。このような従業員の幸福が会社の持続的発展に結びつく好循環こそが、従業員の人権を尊重する重要な意義であるといえるでしょう。

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