経営お役立ちコラム

2022.01.27 【労務】

同一労働・同一賃金に関する
Q&A集
賞与について、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で差異を設ける場合、どのような点に注意すればよいですか。

弁護士 藤原 慎一郎

【2022.10.31現在】

Q
賞与について、正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、短時間(パートタイム)労働者)との間で差異を設ける場合、どのような点に注意すればよいですか(派遣労働者については別記事をご参照ください)。
A
賞与の性質や支給する目的に即し、職務内容、職務内容・配置の変更範囲その他の事情を考慮した上で、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇の相違を禁止したパート有期法8条に違反しないように注意する必要があります。裁判例では、正規雇用労働者には長期雇用を前提とした年功的な賃金制度を設け、短期雇用を前提とする非正規雇用労働者にはこれと異なる賃金体系を設けることは企業の人事施策上の判断として一定の合理性があることを前提とした上で、両者の間の職務内容、職務内容・配置の変更範囲に違いがある等の事情に着目した判断がされています。詳細は、後記3をご参照ください。

(解説)

  1. パート有期法8条では、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇の相違を禁止するという、いわゆる均衡待遇のルールを定めています。具体的には、両者の職務内容、職務内容・配置の変更範囲その他の事情のうち、賞与を含む個々の労働条件の性質や支給する目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならないと定められています。
  2. 厚生労働省が2018年12月28日に作成したガイドラインにおいては、賞与であって、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給するものについて、通常の労働者と同一の貢献である非正規雇用労働者には、貢献に応じた部分につき、通常の労働者と同一の賞与を支給しなければならないと定めています。問題となる取扱いの具体例として、このような性格の賞与を支給している会社において同一の貢献を有する正規雇用労働者と非正規雇用労働者の賞与に差異を設けることは問題となるとしています。
  3. 裁判例については、法改正前の労働契約法20条に関するものであるものの、多数存在し、新法であるパート有期法8条の解釈・適用の際にも参考になると考えられます。
    例えば、メトロコマース事件の第一審判決(東京地判平成29年3月23日労働判例1154号5頁)や控訴審判決(東京高判平成31年2月20日労働判例1198号5頁)では、地下鉄構内の売店業務に従事する正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に一定の賞与額の相違(売店業務従事の正規雇用労働者は夏季と冬季に本給2か月分+17万6000円であったのに対し、非正規雇用労働者のうち有期雇用労働者は夏季と冬季に12万円を支給されるにとどまっていました。)があった事例で、
    • 正規雇用労働者には長期雇用を前提とした年功的な賃金制度を設け、短期雇用を前提とする非正規雇用労働者にはこれと異なる賃金体系を設けるという制度設計をすることには、企業の人事施策上の判断として一定の合理性があること
    • 両者の間の職務内容、職務内容・配置の変更範囲に違いがあること
    • 上記の事情のほか、これまでの会社の賞与の支給実績に照らせば、会社の賞与は主として対象期間中の労務の対価の後払いの性格や、上記人事政策上の目的を踏まえた従業員の意欲向上等の性格を帯びていると見るのが相当
    としたうえで、個別事情として
    • 問題の有期雇用労働者である契約社員は1年契約の時給制で、年間賃金のうち賞与部分に大幅な労務の対価の後払いを予定すべきとはいえないこと
    • 賞与は業績等を踏まえて支給内容を決定されるもので、支給可能な賃金総額の配分にも制約があるところ、会社が経費削減を求められていること
    等の事情を踏まえ、賞与額の相違は不合理ではないと判断されました。
    その他の正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の賞与の相違が問題となった裁判例の多くは、相違の不合理を否定しています(最高裁でも賞与の相違に関し不合理性を否定された事案があります(最判令和2年10月13日判タ1483号70頁))。
    もっとも、裁判例はあくまで事例判断であり、事実関係次第では、賞与の取扱いの相違が不合理と判断されることもあります。現に、「正規雇用労働者」と「非正規雇用労働者のうちアルバイト」の賞与の相違が問題になった事例において、アルバイトと異なり、長期雇用を前提としない非正規雇用労働者のうち契約社員には一律で賞与(正規雇用労働者の8割相当)を支給しており、成果報酬やインセンティブなどの要素も存しない等の事情のもとでは、正規雇用労働者とアルバイトの賞与額の相違(アルバイトへの賞与不支給)は正規雇用労働者の賞与の6割を下回る部分に関し不合理であると判断したもの(大阪高判平成31年2月15日労働判例1199号5頁)も存在することには注意が必要です。
  4. 同一労働同一賃金への対応が未了であり、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で賞与等の待遇に差異を設けている場合には、厚生労働省作成の取組手順書等を参考に、同一労働同一賃金に違反しないような賃金制度の構築・運用となっているか確認しなければなりません。同一労働同一賃金に違反しないような賃金制度の構築・運用にあたっては、こちらの記事も参考にしてください。

以上の記事に関するご不明点、同一労働同一賃金を含む働き方改革への対応その他労務問題に関するご相談は、中小企業・個人事業主の法的支援を扱う「東京弁護士会中小企業法律支援センター」の相談窓口まで、お気軽にお問い合わせください。

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