経営お役立ちコラム
2022.02.28 【労務】
同一労働・同一賃金に関する
Q&A集
役職手当について、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で差異を設ける場合、どのような点に注意すればよいですか。
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Q
役職手当について,正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者,パートタイム労働者)との間で差異を設ける場合,どのような点に注意すればよいですか(派遣労働者については別記事をご参照ください)。 -
A
役職手当の性質や支給する目的に即し,職務内容,職務内容・配置の変更範囲その他の事情(所定労働時間の相違等)を考慮した上で,正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇の相違を禁止したパート有期法8条に違反しないように注意する必要があります。
(解説)
- パート有期法8条及び労働者派遣法30条の3では,正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇の相違を禁止するという,いわゆる均衡待遇のルールを定めています。具体的には,両者の職務内容,職務内容・配置の変更範囲その他の事情のうち,役職手当を含む個々の労働条件の性質や支給する目的に照らして適切と認められるものを考慮して,不合理と認められる相違を設けてはならないと定められています。
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役職手当とは、「役職の内容に対して支給する」手当のことをいいます。
これは役職の名称ではなく内容に着目して支給する手当です。役職の名称が同じであっても内容が異なるのであれば、これに対して支給する役職手当は異なるものになります。
厚生労働省が2018年12月28日に作成したガイドライン(短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針⦅厚生労働省告示第430号⦆)には,役職手当についての原則となる考え方及び具体例が挙げられています。この原則となる考え方・具体例に反した場合,その相違が不合理と認められる等の可能性があります(ガイドライン3頁「第2 基本的な考え方」)。ガイドライン9~10頁
第3 短時間・有期雇用労働者
(中略)3 手当
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(1)役職手当であって、役職の内容に対して支給するもの
役職手当であって、役職の内容に対して支給するものについて、通常の労働者と同一の内容の役職に就く短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の役職手当を支給しなければならない。また、役職の内容に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた役職手当を支給しなければならない。
(問題とならない例)
- イ 役職手当について、役職の内容に対して支給しているA社において、通常の労働者であるXの役職と同一の役職名(例えば、店長)であって同一の内容(例えば、営業時間中の店舗の適切な運営)の役職に就く有期雇用労働者であるYに対し、同一の役職手当を支給している。
- ロ 役職手当について、役職の内容に対して支給しているA社において、通常の労働者であるXの役職と同一の役職名であって同一の内容の役職に就く短時間労働者であるYに、所定労働時間に比例した役職手当(例えば、所定労働時間が通常の労働者の半分の短時間労働者にあっては、通常の労働者の半分の役職手当)を支給している。
役職手当について、役職の内容に対して支給しているA社において、通常の労働者であるXの役職と同一の役職名であって同一の内容の役職に就く有期雇用労働者であるYに、Xに比べ役職手当を低く支給している。
ガイドライン21~22頁
第4 派遣労働者
(中略)3 手当
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(1)役職手当であって、役職の内容に対して支給するもの
役職手当であって、派遣先及び派遣元事業主が、役職の内容に対して支給するものについて、派遣元事業主は、派遣先に雇用される通常の労働者と同一の内容の役職に就く派遣労働者には、派遣先に雇用される通常の労働者と同一の役職手当を支給しなければならない。また、役職の内容に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた役職手当を支給しなければならない。
(問題とならない例)
- イ 派遣先であるA社及び派遣元事業主であるB社においては、役職手当について、役職の内容に対して支給しているところ、B社は、A社に派遣されている派遣労働者であって、A社に雇用される通常の労働者であるXの役職と同一の役職名(例えば、店長)であって同一の内容(例えば、営業時間中の店舗の適切な運営)の役職に就くYに対し、A社がXに支給するのと同一の役職手当を支給している。
- ロ 派遣先であるA社及び派遣元事業主であるB社においては、役職手当について、役職の内容に対して支給しているところ、B社は、A社 に派遣されている派遣労働者であって、A社に雇用される通常の労働者であるXの役職と同一の役職名であって同一の内容の役職に就くYに、所定労働時間に比例した役職手当(例えば、所定労働時間がA社に雇用される通常の労働者の半分の派遣労働者にあっては、当該通常の労働者の半分の役職手当)を支給している。
派遣先であるA社及び派遣元事業主であるB社においては、役職手当について、役職の内容に対して支給しているところ、B社は、A社に派遣されている派遣労働者であって、A社に雇用される通常の労働者であるXの役職と同一の役職名であって同一の内容の役職に就くYに対し、A社がXに支給するのに比べ役職手当を低く支給している。
また,ガイドラインには,「各種手当等の賃金に相違がある場合において、その要因として通常の労働者と短時間・有期雇用労働者の賃金の決定基準・ルールの相違があるときは、「・・・将来の役割期待が(と)異なるため、賃金の決定基準・ルールが異なる」等の主観的又は抽象的な説明では足りず、賃金の決定基準・ルールの相違は、・・・職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものの客観的及び具体的な実態に照らして、不合理と認められるものであってはならない」とも記載されています(ガイドライン8頁「第3 短時間・有期雇用労働者 1 基本給」(注)部分,19~20頁「第4 派遣労働者 1 基本給」(注)部分)。これは役職手当等の「各種手当等」にも妥当する考え方です。正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で単に将来の役割期待が異なるという理由だけでは,役職手当の相違が不合理とされる可能性があります。 -
(1)役職手当であって、役職の内容に対して支給するもの
- 正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の相違を解消するため、就業規則を変更すること等により正規雇用労働者も含めて役職手当を廃止又は減額することが考えられます。しかしながら、労働契約の内容である労働条件を不利益に変更する場合にも原則として労働者の合意が必要です(労働契約法9条)。例外的に労働者の合意なく就業規則を不利益に変更することが認められますが、その場合であっても、その変更は合理的なものである必要があります(労働契約法10条)。ただし、例外的に認められるとしても非正規雇用労働者のために役職手当が一方的に廃止されたり減額されたと思われては、正規雇用労働者のモチベーションの低下にもつながりかねませんので、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差を解消するにあたり、事業者が就業規則の変更等により一方的に正規雇用労働者も含めて役職手当を廃止又は減額することは適切な対応とはいえません。
- 役職手当は会社における地位や役割・責任に報い,労働者のモチベーションを高めるために支給されるものです。そのため,労使により、会社の財務状況や各労働者の個別具体の事情に応じて役職手当について議論していくことが必要となります。その際には,弁護士等の専門家に相談することが重要です。
- 同一労働同一賃金への対応が未了であり、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で役職手当等の待遇に差異を設けている場合には、厚生労働省作成の取組手順書等を参考に、同一労働同一賃金に違反しないような賃金制度の構築・運用となっているか確認しなければなりません。同一労働同一賃金に違反しないような賃金制度の構築・運用にあたっては、こちらの記事も参考にしてください。
以上の記事に関するご不明点、同一労働同一賃金を含む働き方改革への対応その他労務問題に関するご相談は、中小企業・個人事業主の法的支援を扱う「東京弁護士会中小企業法律支援センター」の相談窓口まで、お気軽にお問い合わせください。
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