経営お役立ちコラム

2022.03.28 【労務】

同一労働・同一賃金に関する
Q&A集
住宅手当について、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で差異を設ける場合、どのような点に注意すればよいですか。

弁護士 古賀 聡

Q
住宅手当について、正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者)との間で差異を設ける場合、どのような点に注意すればよいですか(派遣労働者については別記事をご参照ください。)。
A
住宅手当の性質や支給する目的に即し、職務内容、職務内容・配置の変更範囲その他の事情を考慮した上で、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇の相違を禁止したパート有期法8条に違反しないように注意する必要があります。

(解説)

  1. パート有期法8条では、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇の相違を禁止するという、いわゆる均衡待遇のルールを定めています。具体的には、両者の職務内容、職務内容・配置の変更範囲その他の事情のうち、住宅手当を含む個々の労働条件の性質や支給する目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならないと定められています。
  2. 住宅手当とは、会社によって名称や支給の有無は異なりますが、従業員の住宅に要する費用を補助する趣旨で支給される手当を指します。
    厚生労働省が2018年12月28日に作成した同一労働同一賃金ガイドラインにおいては、住宅手当の考え方について明記されておりません。
    もっとも、ガイドライン3頁においては、「なお、この指針に原則となる考え方が示されていない退職手当、住宅手当、家族手当等の待遇や、具体例に該当しない場合についても、不合理と認められる待遇の相違の解消等が求められる。」と記載されています。
  3. 裁判例については、法改正前の労働契約法20条に関するものであるものの、多数存在し、新法であるパート有期法8条の解釈・適用の際にも参考になると考えられます。
    例えば、ハマキョウレックス事件の最高裁判決(最判平成30年6月1日 民集72巻2号88頁)では、一般貨物自動車運送事業等を目的とする会社において、トラックの運転手を業務内容とする従業員の内、正規雇用労働者(正社員)は住宅手当(2万円)を支給する一方で、非正規雇用労働者(有期雇用社員)に対してこれを支給しない事例で、
    • 正規雇用労働者の就業規則には、会社は業務上必要がある場合は従業員の就業場所の変更を命ずることができる旨の定めがあり、出向を含む全国規模の広域異動の可能性があるが、非正規雇用労働者の就業規則には配転又は出向に関する定めはなく、就業場所の変更や出向は予定されていないと認定した上で、
    • 住宅手当は、従業員の住宅に要する費用を補助する趣旨で支給されるものと解されるところ、非正規雇用労働者については就業場所の変更が予定されていないのに対し、正規雇用労働者については、転居を伴う配転が予定されているため、非正規雇用労働者と比較して住宅に要する費用が多額となり得る
    という事情を踏まえ、住宅手当の支給に関する相違は不合理ではないと判断されました。
    他方で、メトロコマース事件の高裁判決(東京高判平成31年2月20日労判1198号5頁)では、住宅手当は主として従業員の住宅費を中心とした生活費を補助する趣旨で支給されるものと認定した上で、生活費補助の必要性は職務の内容等によって差異が生ずるものではなく、また、会社の勤務場所が都内にあることに触れ、正規雇用労働者であっても転居を必然的に伴う配置転換は想定されていないことからすると、非正規雇用労働者と比較して正規雇用労働者の住宅費が多額になり得るといった事情もないとして、住宅手当の相違は不合理であると判断した点には注意が必要です。
  4. 同一労働同一賃金への対応が未了であり、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で住宅手当等の待遇に差異を設けている場合には、厚生労働省作成の取組手順書等を参考に、同一労働同一賃金に違反しないような賃金制度の構築・運用となっているか確認しなければなりません。同一労働同一賃金に違反しないような賃金制度の構築・運用にあたっては、こちらの記事も参考にしてください。

以上の記事に関するご不明点、同一労働同一賃金を含む働き方改革への対応その他労務問題に関するご相談は、中小企業・個人事業主の法的支援を扱う「東京弁護士会中小企業法律支援センター」の相談窓口まで、お気軽にお問い合わせください。

ご利用にあたって

各記事は執筆時点のものであり、記事内容およびリンクについてはその後の法改正などは反映しておりません。