経営お役立ちコラム

2022.09.02 【労務】

同一労働・同一賃金に関する
Q&A集
定年後再雇用について、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で差異を設ける場合、どのような点に注意すればよいですか。

弁護士 永井 恵生

Q
定年後再雇用について、どのような点に注意すればよいですか。
A
定年後再雇用による有期雇用労働者については、正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)との間に、不合理な待遇の相違を禁止したパート有期法(以下、「法」といいます)8条及び差別的な取扱いを禁止した法9条に違反しないよう十分にご注意ください。判例では、待遇差の程度や労働組合との団体交渉の結果等の事情に着目した判断がされています。詳細は、後記4をご参照ください。

(解説)

  1. 本記事における定年後再雇用による有期雇用労働者とは、定年に達した後に継続雇用された有期雇用労働者等を指します。高年齢者雇用安定法(以下、「高安法」といいます)第9条によれば、定年を65歳未満に定めている事業主は、原則として、希望者全員を対象として、以下のいずれかの高年齢者雇用確保措置を講じなければなりません。
    1. ①65歳までの定年の引き上げ
    2. ②定年制の廃止
    3. ③65歳までの継続雇用制度の導入
    さらに、2021年4月1日の高安法の改正では、65歳から70歳までの就業機会確保措置を講じることが努力義務となりました(高安法10条の2)。
    なお、本記事の定年後再雇用による有期雇用労働者は上記③を指し、上記①②は短時間・有期雇用労働者ではありませんので、法の問題にはなりません。
  2. 法8条は、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇の相違を禁止する、いわゆる均衡待遇のルールを定めています。具体的には、両者の職務内容、職務内容・配置の変更範囲その他の事情のうち、個々の待遇の性質や支給する目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならないと定められています。
    また、法改正前の労働契約法20条を前提とした同一労働同一賃金ガイドラインでは、待遇差が不合理か否かの判断要素の1つである「その他の事情」として、定年後再雇用による有期雇用労働者であることが考慮されうると指摘されています(ガイドライン8頁)。
    法9条は、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の差別的な待遇の相違を禁止する、いわゆる均等待遇のルールを定めています。具体的には、正規雇用労働者と非正規労働者との間で、職務内容、職務内容・配置の変更範囲(人材活用の仕組み、運用等)が同じ場合には、有期雇用労働者であることを理由に、個々の待遇について差別的な取扱いを設けてはならないと定められています。
  3. 定年後再雇用による有期雇用労働者が定年前と職務内容又は職務内容・配置の変更範囲(人材活用の仕組み、運用等)が異なる場合には、法8条(均衡待遇)が適用され、正規雇用労働者との間の待遇差が、不合理であるか否かが判断されます。
    一方で、定年前と職務内容及び職務内容・配置の変更範囲(人材活用の仕組み、運用等)が同じであった場合、すなわち、正規雇用労働者と職務内容等が同じ場合には、法8条(均衡待遇)に加えて、9条(均等待遇)の要件に当たるかが問題となりえます。そして、法9条の要件に当たるとなると、定年後再雇用による有期雇用労働者と正規雇用労働者との間の待遇差は、差別的な取扱いに当たり、違法と判断される可能性がありますので、ご注意ください。
  4. 正規雇用労働者と定年後再雇用による有期雇用労働者に関する判例・裁判例としては、長澤運輸事件(最判平成30年6月1日)等が挙げられます。いずれも法改正前の労働契約法20条に関するものであり、現在では法8条、9条の問題となると考えられますが、法に違反するか否かの解釈・適用の際にも参考になると考えられます。
    長澤運輸事件は、輸送事業を営む会社を定年退職した後に嘱託社員として有期労働契約を締結した有期雇用労働者と正規雇用労働者との間の労働条件の相違が争点となりました。 この判例の事案における正規雇用労働者と定年後再雇用による有期雇用労働者とは、職務内容が同一であり、職務の内容及び配置の変更の範囲(人材活用の仕組み、運用等)も異ならないにもかかわらず、両者の間には、①能率給・職務給、②精勤手当、③住宅手当・家族手当、④役付手当、⑤時間外手当、⑥賞与、という点で待遇差がありました。
    このうち、裁判所は、定年後再雇用による有期雇用労働者であることを「その他の事情」とし、待遇差の程度や労働組合との団体交渉の結果等の事情を考慮した結果、①③④⑥は不合理ではないとした一方で、②⑤は不合理であると判断しています。ただし、この判例は、あくまで事例判断であって、事実関係を異にする事案では異なる判断が下される可能性があります。また、上記のとおり、この判例の事案は、現在では法8条に加えて、9条の問題にもなりうるため、結論が異なる可能性がありますので、あわせてご注意ください。
  5. 以上のガイドライン・裁判例を踏まえると、定年後再雇用による有期雇用労働者と正規雇用労働者との間で待遇差がある場合又は今後待遇差を設けることを検討中の場合には、上記3、4を踏まえて、賃金制度の構築・運用が、法8条及び9条に違反しないように十分にご注意ください。その際、こちらの記事厚生労働省作成の取組手順書等もご参考ください。

以上の記事に関するご不明点、同一労働同一賃金を含む働き方改革への対応その他労務問題に関するご相談は、中小企業・個人事業主の法的支援を扱う「東京弁護士会中小企業法律支援センター」の相談窓口まで、お気軽にお問い合わせください。