経営お役立ちコラム
2024.08.19 【事業承継】
社長が認知症になる前に事業承継に備える方法としては、どんなことが考えられますか。【認知症になる前の事業承継の準備〜任意後見制度と信託制度〜】
1 はじめに
社長であるあなたが認知症になり判断能力を失った場合、他に代表者がいないとき、会社は契約締結行為など経営に必要な行為をすることができなくなる可能性があります。また、この場合で、あなたが会社の株式の全部又は大多数を保有しているとき、新たに役員を選任することもできず、結果として、会社経営が機能不全に陥る可能性があります。さらに、あなたの考えとは異なる会社経営が行われてしまうかもしれません。このような場合、あなたは信頼できる方にあなたの会社の経営を円滑に引き継いでほしいと思いませんか。
<リンク:認知症になってしまった場合に起きること>
この記事では、社長が認知症になってしまう前に、準備できることをご紹介します。
2 認知症に備える方法2つ
社長の認知症に備える方法としては、ここでは任意後見制度と信託制度の2つの制度を紹介いたします。
どちらも、社長が認知症になってしまい、契約の意味などを理解できなくなってしまった場合に、社長が事前に選んだ人物に経営等を行ってもらうために用いることができる制度です。
3 任意後見制度
任意後見制度とは、認知症などで判断能力を失う場合に備えて、あらかじめ任意後見人(任せる人)と任意後見事務(任せること)を定めておく制度です。この制度を利用し、社長が認知症になる前に、経営について任せたいと思う方を選び、選んだ方との間で経営(役員の選任等の株式議決権行使や事業用資産の管理など)を任せる内容の契約をしておくことにより、社長の認知症に備えることができます。
<リンク:任意後見制度とは(手続の流れ、費用) | 成年後見はやわかり (mhlw.go.jp)>
任意後見制度を利用するには、社長が経営を任せたい方との間で、任意後見契約を公正証書にて締結し、また、登記する必要があります。
任意後見制度は、後見制度(判断能力が欠けてしまった方のための制度)の1つですので、任意後見制度によって会社を引き継ぐ時期は、裁判所が認知症等になったと判断した後です。
裁判所は、任意後見制度の場合には、任意後見事務が適正にされているかをチェックするなどのために、任意後見監督人を選任します。
<リンク:後見監督について | 裁判所 (courts.go.jp)>
社長が死亡した場合、任意後見は終了し、相続が始まります。社長が任意後見制度で選んだ方が社長の相続人でない場合、社長が選んだ方ではなく、社長の相続人が会社を引き継ぐ可能性があります。任意後見制度を使う場合には、社長が認知症になった場合の任意後見契約だけではなく、社長が亡くなった後に備えた遺言書を作成しておくことも重要です。
4 信託制度
信託制度とは、第三者に自身の財産を託し、一定の目的に従い管理・処分等をしてもらう制度です。社長が、認知症になる前に、後継者などに対し、株式や事業用資産などを信託していれば、社長が認知症になっても、後継者が新役員の選任や事業用資産の管理などをして、会社の経営を円滑に引き継ぐことができます。
<リンク:信託の仕組み | 信託ってなに? | イチから学ぶ信託 | 信託協会 (shintaku-kyokai.or.jp)>
信託を行うためには、事前に信託契約などを行っておく必要があります。
信託がいつ始まるかは、自由に選ぶことができます。そのため、任意後見制度とは異なり、認知症などになる前から信託を開始することもできます。
信託監督人を付けるか否かも自由です。
社長が亡くなった後についても、信託の一種である遺言代用信託という方法を使って、遺言書無しに、社長の死後の事業の引き継ぎに備えることもできます。
<リンク:遺言代用信託 | どのように使われているの? | イチから学ぶ信託 | 信託協会 (shintakukyokai.or.jp)>
5 おわりに
任意後見制度と信託制度は、開始のタイミング、後継者への監督の有無や程度、費用など様々な点が異なります。
社長がどのような方法で認知症に備えるかは、それぞれの制度のメリット・デメリットを踏まえて決める必要があります。ご事情を伺い、任意後見制度と信託制度の併用をお勧めすることもあります。
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