経営お役立ちコラム

2022.04.20 【労務】

同一労働・同一賃金に関する
Q&A集
時間外・深夜・休日労働の割増率について、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で差異を設ける場合、どのような点に注意すればよいですか。

弁護士 永井 恵生

Q
時間外・休日・深夜労働手当(割増率)について、正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者)との間で差異を設ける場合、どのような点に注意すればよいですか(派遣労働者については別記事をご参照ください)。
A
時間外・休日・深夜労働手当(割増率)の性質・目的に即し、職務内容、職務内容・配置の変更範囲その他の事情を考慮した上で、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間に不合理な待遇の相違を禁止したパート有期法8条に違反しないよう十分に注意する必要があります。

(解説)

  1. パート有期法8条は、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇の相違を禁止する、いわゆる均衡待遇のルールを定めています。具体的には、両者の職務内容、職務内容・配置の変更範囲その他の事情のうち、時間外・休日・深夜労働の割増率を含む個々の待遇の性質や支給する目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならないと定められています。
  2. 時間外・休日・深夜労働手当は、労働者が行った時間外労働、休日労働、深夜労働に対してそれぞれ支給される手当です。
    労働基準法は、時間外・休日・深夜労働手当(割増率)について、下記のとおり定めています(労働基準法37条1項、4項、同法附則138条、労働基準法37条1項の時間外および休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令)。
    手当の種類 割増率
    時間外労働(法定労働時間を超える労働) 25%
    深夜労働(原則:午後10時から午前5時まで) 25%
    時休日労働(法定休日における労働) 35%
    上記の各割増率は最低限度を定めたものです。そのため、賃金制度上、時間外・休日・深夜労働手当について、法が定めたものよりも高い割増率とすることが可能です。
    なお、早朝・夜間といった特定の時間帯の勤務に対して支給される早出・夜間手当については、こちらの記事にて解説していますのでご参照ください。
  3. 厚生労働省が2018年12月28日に公布・告示した同一労働同一賃金ガイドライン(厚生労働省告示第430号「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」)には、次のとおり記載されています。
    1. (1) 時間外労働に対して支給される手当
      「通常の労働者と同一の時間外労働を行った短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者の所定労働時間を超えた時間につき、通常の労働者と同一の割増率等で、時間外労働に対して支給される手当を支給しなければならない。」(第3の3(5))
    2. (2) 深夜労働又は休日労働に対して支給される手当
      「通常の労働者と同一の深夜労働又は休日労働を行った短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の割増率等で、深夜労働又は休日労働に対して支給される手当を支給しなければならない。」(第3の3(6))
    ガイドラインもこの判例を踏まえて作られたものと思われます。例えば、ガイドラインでは、「その労働時間の途中に昼食のための休憩時間がある通常の労働者に支給している食事手当を、その労働時間の途中に昼食のための休憩時間がない(例えば、午後2時から午後5時までの勤務)短時間労働者には支給していない場合」を(問題とならない例)としている一方で、「通常の労働者には、有期雇用労働者に比べ、食事手当を高く支給している場合」を(問題となる例)としています。
    もっとも、これは事例判断であり、法改正前の事件ですので、そのまま他の事件に当てはまるわけではないことに注意する必要があります。
  4. 時間外・休日・深夜労働手当(割増率)に関し、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間に待遇差を設けた場合、現在のところ、この待遇差を不合理ではないとした裁判例はありません。
    一方で、法改正前の労働契約法20条に関するものではありますが、メトロコマース事件(東京高判平成31年2月20日労判1198号5頁)は、時間外労働手当に関し、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間にあった待遇差は、不合理であると判断しました。
    裁判例の事例は、賃金制度上、正社員は、所定労働時間を超えて労働した場合、初めの2時間については割増率を2割7分とし、これを超える時間については割増率を3割5分としていました。他方で、契約社員は、1日8時間を超えて労働した場合、割増率は労働時間の長短にかかわらず一律2割5分としていました。
    裁判例は、労働基準法37条1項本文が定める時間外労働手当(割増率)の趣旨について、「時間外労働が通常の労働時間又は労働日に付加された特別の労働であるから、それに対しては使用者に一定額の補償をさせるのが相当であるとともに、その経済的負担を課すことによって時間外労働を抑制しようとする点にある」と指摘しました。その上で、「時間外労働の抑制という観点から有期契約労働者と無期契約労働者とで割増率に相違を設ける理由はなく、そのことは使用者が法定の割増率を上回る割増率による割増賃金を支払う場合にも同様というべきである」と判断しています。
    なお、上記裁判例はあくまで事例判断であり、事実関係を異にする事案では異なる判断となる可能性がありますのでご注意ください。
  5. 以上のガイドライン・裁判例を踏まえると、時間外・休日・深夜労働手当の趣旨は時間外・休日・深夜労働の抑制にあり、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間にある時間外・休日・深夜労働手当(割増率)の待遇差は不合理と判断される可能性が高いでしょう。
    もっとも、本記事で紹介した裁判例は、「労使交渉によって正社員の割増率が決められたという経緯を認めるに足りる的確な証拠もない」とも指摘しています。そのため、労使交渉の結果として、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間に時間外・休日・深夜労働手当(割増率)に待遇差が生じたという事情が認められる場合には、不合理ではないと判断される可能性もあります。
  6. 時間外・休日・深夜労働手当(割増率)に関し、既に正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間に待遇差がある場合、または今後待遇差を設けることについて検討中の場合には、上記3~5を踏まえて、賃金制度の構築・運用がパート有期法8条に違反しないよう十分にご注意ください。その際、こちらの記事厚生労働省作成の取組手順書等もご参考ください。

以上の記事に関するご不明点、同一労働同一賃金を含む働き方改革への対応その他労務問題に関するご相談は、中小企業・個人事業主の法的支援を扱う「東京弁護士会中小企業法律支援センター」の相談窓口まで、お気軽にお問い合わせください。

ご利用にあたって

各記事は執筆時点のものであり、記事内容およびリンクについてはその後の法改正などは反映しておりません。