経営お役立ちコラム
2022.06.23 【労務】
同一労働・同一賃金に関する
Q&A集
傷病休暇について、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で差異を設ける場合、どのような点に注意すればよいですか。
-
Q
傷病休暇及び傷病欠勤中の給与支給について、正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者)との間で差異を設ける場合、どのような点に注意すればよいですか(派遣労働者については別記事をご参照ください。)。 -
A
傷病休暇及び傷病欠勤中の給与支給の性質や目的に即し、職務内容、職務内容・配置の変更範囲その他の事情を考慮した上で、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇の相違を禁止したパート有期法8条に違反しないように注意する必要があります。裁判例では、傷病休暇や傷病欠勤中の給与支給という制度の趣旨や非正規雇用労働者の地位等の事情に着目した判断がされています。詳細は、後記3をご参照ください。
(解説)
- パート有期法8条では、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇の相違を禁止するという、いわゆる均衡待遇のルールを定めています。具体的には、両者の職務内容、職務内容・配置の変更範囲その他の事情のうち、傷病休暇及び傷病欠勤中の給与支給を含む個々の待遇の性質や当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならないと定められています。
-
傷病休暇及び傷病欠勤中の給与支給とは、会社によって名称や制度の有無は異なりますが、私傷病で欠勤する場合に療養に専念させる趣旨で一定の給与補償をした休暇を付与したり、傷病欠勤中に一定の給与を支給したりする制度をいいます。なお、類似する制度として病気休職制度があり、同制度については、こちらの記事で解説しておりますので、ご参照ください。
厚生労働省が2018年12月28日に作成した同一労働同一賃金ガイドライン(厚生労働省告示第430号「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」)においては、傷病休暇及び傷病欠勤中の給与支給の考え方について明記されておりません。
もっとも、ガイドライン3頁においては、「なお、この指針に原則となる考え方が示されていない退職手当、住宅手当、家族手当等の待遇や、具体例に該当しない場合についても、不合理と認められる待遇の相違の解消等が求められる。」と記載されています。
また、ガイドライン8頁においては、「通常の労働者と短時間・有期雇用労働者の賃金の決定基準・ルールの相違があるときは、『通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間で将来の役割期待が異なるため、賃金の決定基準・ルールが異なる』等の主観的又は抽象的な説明では足りず、賃金の決定基準・ルールの相違は、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものの客観的及び具体的な実態に照らして、不合理と認められるものであってはならない。」との記載があります。
以上のようなガイドラインの記載からすれば、傷病休暇及び傷病欠勤中の給与支給の取扱いについても、この記載に従って、不合理な相違を生じさせないような規定としておく必要があります。不合理かどうかを具体的に検討する際には、以下で説明する判例を含む類似の事案における取扱いが参考になります。 -
傷病休暇及び傷病欠勤中の給与支給について、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の区別の合理性について判断した近時の判例として、法改正前の労働契約法20条に関するものであるものの、傷病休暇につき、日本郵便(東京)事件の最高裁判決(最判令和2年10年15日判時2494号70頁)、傷病欠勤中の給与支給につき、大阪医科薬科大学事件の最高裁判決(最判令和2年10月13日判時2490号67頁)があります。ただし、これらの判例はあくまで事例判断であり、事実関係を異にする事案では異なる判断が下される可能性がありますのでご留意ください。
-
(1) 傷病休暇(日本郵便(東京)事件の最高裁判決)
同判例は、郵便の業務を担当する正規雇用労働者(正社員)に対して有給の傷病休暇を付与する一方で、郵便の業務を担当する非正規雇用労働者(時給制契約社員)に対して無給の傷病休暇のみを付与するという労働条件の相違について、- 私傷病による有給の傷病休暇を付与する目的について、正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから、その生活保障を図り、私傷病の療養に専念させることを通じて、その継続的な雇用を確保することと認定した上で、
- 上記目的に照らせば、時給制契約社員についても、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、私傷病による有給の傷病休暇を付与することとした趣旨は妥当すること
- 郵便の業務を担当する時給制契約社員は、有期雇用契約の更新を繰り返して勤務する者が存するなど、相応に継続的な勤務が見込まれていること
-
(2) 傷病欠勤中の給与支給(大阪医科薬科大学事件の最高裁判決)
同判例は、大学の教室事務員である正規雇用労働者(正職員)に対して私傷病による欠勤中の賃金を支給する一方で、非正規雇用労働者(アルバイト職員)に対してこれを支給しないという労働条件の相違について、- 私傷病による欠勤中の賃金を支給する目的について、正職員が長期にわたり継続して就労し、又は将来にわたって継続して就労することが期待されることから、その生活保障を図るとともに、その雇用を維持し確保することと認定した上で、
- 教室事務員である正職員とアルバイト職員との間には職務の内容及び変更の範囲に一定の相違があったこと、教室事務員である正職員が、極めて少数にとどまり、他の大多数の正職員と職務の内容及び変更の範囲を異にするに至っていたことについては、教室事務員の業務の内容や人員配置の見直し等に起因する事情が存在したこと、職種を変更するための試験による登用制度が設けられたいたこと等の事情に加えて、
- アルバイト職員は、契約期間を1年以内とし、更新される場合はあるものの、長期雇用を前提とした勤務を予定しているものとはいい難いことにも照らせば、雇用を維持し確保することを前提とする制度の趣旨が直ちに妥当するものとはいえないこと
- 本件の有期労働契約が当然に更新され契約期間が継続する状況にあったことをうかがわせる事情も見当たらないこと
もっとも、これは事例判断であり、法改正前の事件ですので、そのまま他の事件に当てはまるわけではないことに注意する必要があります。 -
(1) 傷病休暇(日本郵便(東京)事件の最高裁判決)
- 同一労働同一賃金への対応が未了であり、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で扶養手当・家族手当等の待遇に差異を設けている場合には、厚生労働省作成の取組手順書等を参考に、同一労働同一賃金に違反しないような賃金制度の構築・運用となっているかを確認しなければなりません。同一労働同一賃金に違反しないような賃金制度の構築・運用にあたっては、こちらの記事も参考にしてください。
以上の記事に関するご不明点、同一労働同一賃金を含む働き方改革への対応その他労務問題に関するご相談は、中小企業・個人事業主の法的支援を扱う「東京弁護士会中小企業法律支援センター」の相談窓口まで、お気軽にお問い合わせください。
ご利用にあたって
各記事は執筆時点のものであり、記事内容およびリンクについてはその後の法改正などは反映しておりません。