経営お役立ちコラム

2022.09.02 【労務】

同一労働・同一賃金に関する
Q&A集
派遣法(前編)について、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で差異を設ける場合、どのような点に注意すればよいですか。

弁護士 上田 孝明

Q
「労働者派遣における同一労働同一賃金では、どのような点に注意したら良いでしょうか。」(前編)
後編はこちら
A
派遣労働者にも、同一労働同一賃金(同一企業内における正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の禁止)が適用されます。この点、派遣労働者の就業場所は派遣先になりますので、派遣先の通常の労働者との関係でこの同一労働同一賃金を考える必要があります。他方で、派遣労働者はずっと同じ派遣先にいるとは限りません。派遣先が変わるたびに賃金水準が変わり派遣労働者の所得が不安定となるという問題や、派遣労働者が希望する派遣先が賃金の高い大企業に集中し派遣元において派遣先への配置が困難となるという問題なども考えられます。
そこで、こういった労働者派遣の特色も踏まえ、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下「労働者派遣法」といいます)では、派遣労働者の待遇決定方式について、派遣元に対して、①派遣先均等・均衡方式、②労使協定方式、のいずれかの方式によることを義務付けています(後記1、2)。
また、適切な待遇を確保するため、派遣先から派遣元への情報提供義務(後編3)、派遣元から派遣労働者への説明義務(後編4)を定めています。そして、これらの実効性を確保するために、裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備が行なわれています(後編5)。

  1. 派遣先均等・均衡方式
    この方式による派遣元は、派遣先の通常の労働者との関係で、派遣労働者の「均等待遇」(労働者派遣法第30条の3第2項)・「均衡待遇」(労働者派遣法第30条の3第1項)が求められます。「均等待遇」とは、差別的取扱いの禁止と言われ、①職務内容と②職務内容・配置の変更の範囲が同じである場合、待遇について同じ取り扱いをしなければならないという原則です。同じ取り扱いのもとで、能力、経験等の違いにより差がつくことは均等待遇に反することになりません。「均衡待遇」とは、不合理な待遇差の禁止と言われ、個々の待遇の性質・目的に照らして、①職務内容、②職務内容・配置の変更の範囲、③その他の事情の違いに応じた範囲内で待遇を決定しなければならないという原則です。「均等待遇」、「均衡待遇」で対象とされる待遇は、基本給、賞与、手当、福利厚生等すべての待遇になります。各労働条件に関する均衡待遇・均等待遇については、他記事をご参照ください。
    派遣元が「均等待遇」「均衡待遇」のどちらを求められるかは、派遣労働者と派遣先の通常の労働者との間で、①職務の内容と②職務の内容・配置の変更の範囲が同じか否かにより決まります。「職務の内容」には、業務の内容だけでなく業務に伴う責任の程度も含まれます(労働者派遣法第26条第8項)。
    ①と②が同じ場合には、派遣労働者に対する差別的取扱いが禁止され、「均等待遇」であることが求められます。それ以外の①又は②が異なる場合は「均衡待遇」であることが求められ、派遣労働者の待遇は、①と②の違いに加えて③その他の事情の違いを考慮して、派遣先の通常の労働者との間に不合理な待遇差のないように決定することが派遣元には求められます。
  2. 労使協定方式
    労使協定方式は、労働者派遣法第30条の4に定められている方式です。この方式を取るには、派遣元は、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合と、これがない場合は労働者の過半数を代表する者と、書面によって協定を結ぶ必要があります。労使協定方式を採用する場合で、労使協定で定めた事項を遵守しているときは、派遣先の教育訓練や福利厚生に関する待遇を除き、均等待遇・均衡待遇とは異なる内容を定めることができます(労働者派遣法第30条の4)。但し、労使協定が適切な内容で定められていない場合や労使協定で定められた事項を遵守していない場合は、労使協定方式は適用されず、派遣先均等・均衡方式が適用されます。なお、この協定により定められた派遣労働者を、以下では「協定対象派遣労働者」と呼びます(労働者派遣法第30条の5)。
    労使協定に定めるべき事項は、①協定で定める派遣労働者の範囲、② 派遣労働者の賃金の決定の方法、③②の方法により賃金を決定するにあたって、派遣労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項を公正に評価し、その賃金を決定すること、④賃金以外の派遣労働者の待遇(派遣元に雇用される、派遣労働者を除く通常の労働者との間で、均等又は均衡待遇となっていなければなりません)、⑤派遣元が、①の派遣労働者に対して、段階的かつ体系的に派遣就業に必要な技能及び知識を習得することができるように教育訓練(労働者派遣法第30条の2第1項に定めています。)を実施すること、⑥有効期間、⑦①の範囲を派遣労働者の一部に限定する場合はその理由、⑧派遣元は、特段の事情がない限り、一つの労働契約の契約期間中に、当該労働契約に係る派遣労働者について、派遣先の変更を理由として、協定対象派遣労働者であるか否かを変更しようとしないこと、になります(労働者派遣法第30条の4第1項、労働者派遣法施行規則第25条の10)。

    派遣先から派遣元への情報提供義務、派遣元から派遣労働者への説明義務、裁判外紛争解決手続(行政ADR)については後編をご参照ください。
    以上のガイドライン・裁判例を踏まえると、定年後再雇用による有期雇用労働者と正規雇用労働者との間で待遇差がある場合又は今後待遇差を設けることを検討中の場合には、上記3、4を踏まえて、賃金制度の構築・運用が、法8条及び9条に違反しないように十分にご注意ください。その際、こちらの記事厚生労働省作成の取組手順書等もご参考ください。

以上の記事に関するご不明点、同一労働同一賃金を含む働き方改革への対応その他労務問題に関するご相談は、中小企業・個人事業主の法的支援を扱う「東京弁護士会中小企業法律支援センター」の相談窓口まで、お気軽にお問い合わせください。